アンナ〜出会い

33.新たなる旅立ち


アンナは、夢を見た。

美しい夕焼けの草原に、赤い服の少年が立っていた。少年の左手にエクスフィアが見える。 それがアンナのエクスフィアだということは、彼女にはすぐに分かった。

少年は、二本の刀を持っていて、ふんいきや髪型はちがうが、目元や口元、髪の色がクラトスに似ていた。

きっと、彼の若いころの姿なのだろう。アンナはそう思った。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

アンナは、少年に向かって声をかけた。少年が、ふり向いて・・・・・笑った。

そこで、夢はさめた。

アンナは、ゆっくりと目を開くと、じっと天井を見て、ふと、思いうかんだ言葉を口にした。

「・・・・・おなか・・・・・すいたな・・・・・・・・・・」

つぶやいて横を見ると、すぐ側にクラトスがいて、あきれた様子でアンナの顔をのぞきこんでいた。

ほっと安心したアンナは、にっこりと笑って言った。

「よかった・・・・・元気そうね」

「・・・・・ああ。おまえもな」

そう言って鼻で笑うと、クラトスは、本当に安心した様子で、長いため息をついた。

「無茶をしたな・・・・・他人にマナを与えるのは非常に危険だ。最低量を与えて命をつなぎ、 後は、回復の術技を使えば良いのだ」

きびしい口調で言うクラトスを見上げながら、アンナは、かすれた声で言った。

「・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・・」

「いや・・・・・こちらこそ、礼を言わねばな。・・・・・・・ありがとう」

クラトスは目を細めて優しく笑うと、アンナのほほにかかった髪をそっとすくい上げた。

「・・・・・ねえ。あの青い髪の人は、だれ?」

「さあ、な」

クラトスは、やんわりとそう言った。アンナも、二人が知り合いだと分かっていたが、彼がそう言うのだ。 それ以上は聞かないことにした。

アンナは、小さなため息をついた。

「結界は、わたしに敵意のある人だけシャットアウトしていたから、クラトス目当てのあの人は入れたのね。 ・・・・・これからは、あなたのことも守ってもらうように、森にお願いするわね」

「・・・・・そうか」

うなづいたクラトスは、何か他のことを考えているようだった。アンナが言葉を待つと、 しばらくして、クラトスが、ぼそりと口を開いた。

「・・・・・取り引きの話なのだが・・・・・」

「うん」

「あれは、なかったことにしてくれ」

「それで?」

アンナは、しんぼう強く続きをうながした。

もしかしたら・・・・・

アンナの心は、明るい予感でふるえていた。

クラトスは、アンナが あきらめかけていた言葉を口にした。

「私は・・・・・おまえの夢をかなえたい。おまえがぎせいにならずにすむ方法で・・・・・・・・ 私は・・・・・私に出来ることを、やってみようと思う」

「クラトス!」

感激したアンナは、がばりと起き上がった。とっさに、クラトスが立ち上がって後ずさる。

クラトスは、アンナが飛びついてこないように警戒(けいかい)しながら言った。

「ところで・・・・・要の紋の・・・・・調子はどうだ?」

「ん?ぴったりだし、気分もいいわよ♪」

「・・・・・・・・・・・」

そこで、クラトスは言葉につまったように口を閉じた。アンナは、首をかしげてクラトスを見上げる。

ずいぶんと長い間があって、ごほんとせきばらいすると、クラトスは、窓の外に視線を固定させて言った。

「・・・・・・・・・・指輪は、私の国では・・・・・心に決めた、唯一の女性におくる風習があるのだ。 ・・・・・・・・・・・・それで・・・・・それもあって・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ああ、それって、ルインもいっしょよ。それがどうか・・・・・・・・・・・あっ!」

そこまで言って、アンナは、急にまっ赤になった。クラトスが言おうとしていることを理解したのだ。

アンナは、右手の薬指に光る指輪とクラトスを交互に見て言った。

「・・・・・もしかして、これって・・・・・」

「気に入らなければ・・・・・他の指に入るように直すが・・・・・・・・・」

そこまで言って、クラトスは、ちらりとだけアンナを見た。

アンナは、じれったくなって、思わず大きな声をあげた。

「もう、はぐらかさないでよ!指輪は、最初からわたしの薬指に合わせて作ってくれたのね?」

クラトスは答えなかった。ただ、視線をそらしたまま、かすかに つぶやいた。ああ・・・・・と。

「ありがとう・・・・・」

アンナは、胸がいっぱいで、指輪を見つめたまま、しばらく何も言えなくなってしまった。

クラトスは、それ以上何も言わなかった。アンナも、何も聞かなかった。今は、それだけで十分だと思った。

幸せがいっぱいにあふれる気持ちをかみしめていたアンナは、ふいに思い出した 夢の内容を確かめたくなってクラトスを見た。

「そういえば・・・・・」

「なんだ?」

「クラトスって・・・・・若いころは、二刀流だったの?」

「いや・・・・・どうした?」

「うん。ちょっと・・・・・ね。聞いてみたかっただけ」

そう言ったアンナの顔が、自然とほころんだ。

(・・・・・じゃあ、あれは、もしかして・・・・・)

「・・・・・なんだ。急に笑い出して・・・・・」

クラトスは まゆをしかめたが、アンナは、明るく笑って言った。

「良かった〜。あなただけじゃ、ちょっと心配だったのよね〜」

「???」

面食らうクラトスに、アンナは、いつものいたずらっぽい笑顔を向けた。

「ねえ、クラトス。わたし、世界を救える方法、もうひとつ思いついちゃったかも♪」

「・・・・・どんな方法だ?」

はなから信じていない様子で、クラトスが言った。

「うふふ。ヒ・ミ・ツ♪まあ、明るい未来のために、仲良くしましょ」

「何だというのだ、一体・・・・・」

とまどうクラトスを見て、アンナは、明るく笑った。

そして、彼の背後から射すまぶしい光に目をやって、窓からのぞく高い空を見やる。

アンナは、胸元のエクスフィアに両手をあてた。そして、大切なものにふれるように、 そっとなでる。それは、とてもあたたかかった。

(ああ・・・・・父さん、母さん、みんな・・・・・・・・・・・・・・・)

(みんなの想いが、わたしをここまで導いてくれました)

(みんなの想いを受けたわたしが想い続ける限り、希望は生きていくんですね・・・・・未来へと・・・・・・・・・・・)

アンナのほほを、静かな なみだが流れる。

アンナは、大好きな歌を口ずさんだ。



アメージンググレイス

われをも救いし くしきめぐみ

まよいし身もいま たちかえりぬ・・・・・





完 20041224

絵:こももさん


歌:アメージング・グレイス・・・イギリス民謡

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