アンナ〜出会い

14、決意


アンナは、ハイマの雑貨屋で最低限の生活用品を買いこむと、 荷物を全部クラトスに持たせておいて、自分は、となりのバザーをのぞいていた。 そこでアンナは、その日のあり金をはたいて、深い青色の布生地を大量に買った。

「アンナ〜。ボク、アンナには、もっと明るい色が似合うと思うんだけどなあ〜」

「いいのいいの♪」

「アンナ〜。もう、お金残ってないよ〜」

「また、明日かせぎましょ♪」

おさいふ係のノイシュがしょんぼりと言っても、アンナは平気な顔で鼻歌を歌いながら、 たくさんならんだガラクタのような物を見ていた。

「あ・・・・・」

ふと、アンナの視線が一ケ所にとまった。

そこに、古びた指輪が置いてあった。銀なのか、銅なのか・・・・・素材も分からないほど変色して ボロボロになった指輪の表面には、かすかに残った見慣れぬ文字がうかんでいる。

アンナはだまって指輪を見ていたが、しばらくして、ぽつりと言った。

「・・・・・ねえ。 これ・・・・・・・・エクスフィアの毒を消す土台・・・・・よね」

「そうだよ。要の紋(かなめのもん)っていうんだ。アンナ、買ったら?」

「・・・・・・・・・・・・」

アンナは、すぐには答えなかった。

かすかに息をはくと、アンナは、ノイシュを見て、どこか悲しそうな瞳をして、笑った。

「・・・・・いらない」

「どうして?」

「これが あったら、すごい力は手に入るけど、エクスフィアは完成しないって聞いたわ。 ・・・・・でも、わたしは、自分のエクスフィアを完成させたいの」

「・・・・・!」

クラトスが、息をとめてアンナを見た。

ノイシュは、大きな前足をアンナのかたに乗せて言った。

「ダメだよ〜!アンナ、知らないの?エクスフィアは・・・・・」

「知ってる」

アンナは、さらりとうなづいた。そして、今にも泣きそうな顔をしているノイシュに にっこりと笑ってみせた。大丈夫だ、と言うように。

「エクスフィアが完成したら、わたしは、死ぬの」

「そんなの、イヤだ!」

ノイシュは、本当に泣きそうな声をあげた。

アンナは、ノイシュの鼻の上を優しくなでながら言った。

「・・・・・わたしが死ぬかわりに、世界を救う希望が生まれるかもしれない・・・・・そう、思うから」

「希望・・・・・」

つぶやいたのは、クラトスだった。

アンナは、クラトスの目を まっすぐ見つめて続けた。

「そうよ。希望。・・・・・ステキでしょ?アンナ・スペシャルエクスフィアが、世界を救うの」

「救う・・・・・の?」

ノイシュが、ゆっくりと首をかしげた。

アンナは両手を胸元にあてると、やわらかな顔をして笑った。

「このエクスフィアはね、特別なんだって。実験体になった時は、最悪!って思ったけど、ここで日がしずんだら世界の裏側で朝がくるみたいに、どんなときでも必ず、どこかに希望の光ってあると思うの。・・・・・エクスフィアはディザイアンが使っているけど、悪さをするのに あれだけの力を使えるのよ?・・・・・だから、いいことにも、使えるはず」

そう言って顔を上げたアンナがクラトスを見ると、クラトスは、じっとアンナを見つめていた。

赤い瞳の奥からは何の感情も読みとれないが、その、真剣でまっすぐな力強いかがやきにすべてをかけてみよう。アンナは、そう決意していた。

「クラトス・・・・・わたしね・・・・・」

アンナがぽつりと切りだしたとき、ぐるぐるるるとノイシュのお腹が鳴り出した。

「・・・・・つづきは、後にしましょうか」

アンナは話を切り上げると、ノイシュにウインクして笑った。

「帰ってお昼ごはんにしましょ。クラトスが、おいしいもの作ってくれるって♪」

「・・・・・・・・・・・・」

クラトスは返事をしなかったが、代わりに小さくため息をついた。

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