24、不死花草
アンナは、クラトスと話しながら服をぬいあげると、外した長そでを改造して、
あっという間に、うでをかくせる長い手ぶくろを作った。
「どう?すごいでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
さっそく手ぶくろにうでを通すと、あまりにも体にぴったりだったので、クラトスはおどろいて目を見張った。
「・・・・・おまえは、他に、どんな力をかくしているのだ?」
「うふふ。ヒ・ミ・ツ♪」
アンナはクラトスにウインクしてみせると、空を見上げて、何かを思い出した様子で小さな声をあげた。
「どうした?」
「ごめんなさい、クラトス。わたし、ちょっと用事があるの。でかけるけど・・・・・ あなたは、ゆっくりしててちょうだい」
「でかける?こんな夜ふけに、どこへ行こうというのだ?」
「ちょっとね・・・・・トイレよ、トイレ」
「・・・・・そうか」
その時は、クラトスもすんなりとアンナの話を受け入れたが、それから1時間たってもアンナがもどらないので、 さすがにクラトスも心配になった。
「ノイシュ。ノイシュ?」
ノイシュをさがすと、彼もいない。
「まさか・・・・・村の外へ出たのか?」
クラトスは、羽を広げると、夜空へと飛び上がった。
アンナは、案外すぐに見つかった。ねこにんの里のすぐ側にあるがけのふもとで心配そうに ウロウロしているノイシュをつかまえたクラトスは、彼をしめあげて洗いざらいをはかせたのだった。
「不死花草・・・・・?そうか・・・・・」
クラトスは、がけの上をじっとにらみつけた。アンナは、不死花草を見るために一人でがけを登ったというのだ。 不死花草は、満月の夜にたった数分間だけさくめずらしい花で、花に願いをかけると、必ずかなうという言い伝えがあった。
しかし、この花は切り立った岩場の上にしかさかないので、見つけるだけでも大変なのだ。
クラトスは、ふわりと空中にうかぶと、静かにアンナを追った。
「よいしょ・・・・・っと」
アンナは、ずいぶん高い場所まで来ていた。不死花草のある場所は ねこにんから教えてもらったので まちがいないはずだったが、ずいぶんと登った気がするのに草のかげも見えない。アンナは、だんだん あせり始めていた。
「早くしないと・・・・・花がしぼんじゃう・・・・・」
つい、急ぐ気持ちがスキを生んだ。アンナは足をふみ外してしまい、そのままがけからすべり落ちた。
「きゃあああっ!」
(・・・・・クラトス!!)
とっさに、アンナはクラトスの名前を呼んだ。
アンナの目の前に、初めて会った時の彼の姿があざやかに映し出される。 絶対に受け止めてやるという真剣な瞳で、まっすぐうでを差しのべてくれたクラトスの勇姿が・・・・・・・・・
(クラトス・・・・・?)
アンナは目を見開いた。彼の着ている服がちがう。あの服は・・・・・・・・・
「クラトス!」
「アンナ!!」
お互いの名を呼んだ次の瞬間、しっかりと二人は だき合っていた。
「クラトス・・・・・クラトス・・・・・っ!」
来てくれた。また来てくれた。クラトスは、いつもいて欲しい時に来てくれる。 アンナは、あふれるなみだをこらえきれなくてしゃくり上げた。
クラトスは、空中でアンナの体を支えたまま、だまって彼女の好きにさせていた。
しばらくの間、アンナはかたをふるわせて泣いていたが、やがて、それが落ち着いたころ、 クラトスが静かにたずねた。
「・・・・・・・・・・無事か?」
「・・・・・うん」
アンナは礼を言おうと思ったのだが、それよりも、感激してしまったことで頭の中がいっぱいだった。
「クラトス・・・・・初めて名前をよんでくれたのね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もう一度・・・・・よんでみて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事がないので顔を見ようとすると、クラトスは何も言わずにそのまま上空へ飛んだ。 そして、がけのてっぺんよりも高くのぼると、ゆっくりと山頂におりた。
ふわり、と、足が地面に着く。
アンナは、そこにまっ白い小さな花があるのを見て息をのんだ。
「あれ・・・・・不死花草?」
「・・・・・そうだ」
クラトスが小さくうなづいた。
不死花草はつぼみだった。まだ、さいていないのか、それとも、すでにしぼんでしまったのか・・・・・・・・・・・・・・
不安になったアンナがクラトスをふり向くと、彼は、静かに言った。これまでに聞いたことのない、 優しさのこもった声で・・・・・・・・
「・・・・・まだだ。不死花草は、一度さくと、すぐにかれてしまう」
「・・・・・よかった・・・・・」
アンナは、不死花草の前にへなへなと座りこんだ。
クラトスは、少しはなれた場所に立つと、たんたんと説明した。
「花がさくまで、あと2時間ほどかかるだろう。しかし、花が咲いているのは、ほんの数分だ。 願いごとは、できるだけ短くまとめておくのだな」
「うん・・・・・」
真剣な顔をして、うなづいて・・・・・アンナは、くすりと笑ってクラトスを見た。
「クラトスって、本当に何でも知っているのね。あなたがいると助かるわ」
「・・・・・そうでもない」
「どうして?」
「私にかかわると・・・・・ろくなことにならんぞ」
「そんなことないわよ」
アンナはそう言って笑ったが、クラトスは、すべてを話す決意をかためてアンナのそばに歩みよった。
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |