11、呪い
「アンナ、アンナ!しっかりして!」
ノイシュは、アンナのほほをなめて必死で彼女を起こそうとした。しかし、 アンナは苦しそうに顔をゆがめたまま、ぴくりとも動かない。かろうじて息をしているのを確めると、 ノイシュは、あわてて空を見上げた。
「まってね、アンナ。クラトスをよぶから・・・・・うわっ?」
思いきりしっぽを引っぱられてふり向くと、胸であえぎながらノイシュを見上げるアンナがいた。
「ダメ・・・・・クラトスには・・・・・ナイショ・・・・・」
ふりしぼったかすかな声でそれだけ言うと、アンナは、ごろりと地面に転がって、 空を、どこか遠くを見た。そして、ふるえる手を胸元にあてて、つぶやいた。
「・・・・・ファースト・・・・・エイド」
「アンナ!?」
ノイシュがすっとんきょうな声をあげる。おどろいて言葉をなくしたノイシュの目の前でかがやく光が生まれ、 優しく彼女を包みこんで消えた。
「・・・・・ふう」
アンナは大きく息を吸って深くはくと、むくりと起き上がって、ぐっしょりとぬれたひたいに手をあてた。
「アンナ!いまの魔法?キミ、人間じゃなかったの???」
ノイシュがアンナにたずねると、アンナは、困ったように笑って言った。
「わたしは人間よ。だけど、小さいころから使えるの。 ご先祖さまにエルフだった人がいるんだって。だからかな、親せきにも、ときどき生まれるみたい」
「魔法を・・・・・使える人間が?」
ノイシュの言葉にアンナは小さくうなづいた。そして、もう一度、アンナは深いため息をついた。
「だけど・・・・・発作が起こる回数がふえてる・・・・・」
「なになに?なんの発作?」
自分がたおれた原因を彼女は知っているのだ。ノイシュは、少しでも力になりたいと思ってたずねた。
しかし、アンナは、よろよろと首を横にふった。
「分からない・・・・・人間牧場をにげた時から始まったの。一緒ににげたみんなは、もう・・・・・」
「人間牧場!」
ノイシュは、クラトスの言葉を思い出して声をあげた。
「クラトスが言ってた!人間牧場をにげた人には、のろいがかかるんだって!」
「のろい?・・・・・そう・・・・・そうなんだ」
アンナは、ようやく何もかも分かったというように小さくつぶやくと、空の向こうに目をやって言った。
「わたしだけ生きてるのは・・・・・エルフの血のおかげ・・・・・かな」
「アンナ・・・・・」
ノイシュは、何も言わずにそっとアンナによりそった。
それからしばらくの間、夜空をぼんやりとながめていたアンナが、ふいに、ぽつりともらした。
「・・・・・ねえ、クラトスは、わたしが人間牧場からにげたって知ってたのね。 ・・・・・じゃあ、エクスフィアについても・・・・・何か、知っているのかな?」
「うん。だって、クラトスもつけてるよ」
「本当?」
アンナは、本当におどろいた様子で大きな声を出すと、いきおいよくノイシュの目をのぞきこんだ。
「うん。本当」
ノイシュは、のんびりと答えて、次の返事を待った。
アンナは、これまでに見せたことのない真剣な顔をしてつぶやいた。
「そっか・・・・・ぜんぜん気がつかなかった・・・・・」
「どうしたの?」
ノイシュが短くたずねると、アンナは、どこかうれしそうに笑って言った。
「うん・・・・・実はね・・・・・わたし、エクスフィアを使える人を探していたの。 エクスフィアを、正しく使える人を」
「正しく?」
「そう。正しく・・・・・よ」
アンナは、ノイシュの首にまわした手に力をこめて、強い口調でそう言った。
「もしかして・・・・・そのために、にげ出したの?」
「う〜ん・・・・・それはどうかな・・・・・わたし、そんな女神さまみたいな人間じゃないし・・・・・」
かたをすくめて笑うと、アンナは、ノイシュを ぎゅっとだきしめた。
「・・・・・わたしね。・・・・・もう、命が長くないの。・・・・・だから・・・・・最後に好きなことしたくて ・・・・・それで、牧場からにげ出したの・・・・・」
その声は、重々しい内容に似合わない、美しく清らかなものだった。
しかし、アンナが語る話にまちがいがないことをノイシュはすでに知っていた。 彼女と同じ道をゆく犠牲者(ぎせいしゃ)をたくさん見てきたからだ。
ノイシュは、悲しくて、悲しくて、どうしようもない気持ちになった。
(今は、こんなにあったかいのに・・・・・だけど・・・・・)
ノイシュは、泣きたくなる気持ちをこらえて、アンナを元気づけようと笑った。
「アンナ!そんな悲しいこと言わないで!今だってアンナは生きてるじゃない。 これからも、もっと、も〜っと生きられるかもしれないでしょ!」
「・・・・・うん。そうだね・・・・・ありがとう、ノイシュ・・・・・」
アンナはノイシュを見上げると、本当にうれしそうに笑った。
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |