7、アンナ
「ん・・・・・・・・・・」
まぶしくて目をさましたアンナは、とつぜん目の前に飛びこんできた大きな顔を見て息をのんだ。 その黒い瞳は、とても優しく、心配そうにかげっている。
白くて毛むくじゃらの大きな顔。どこかで見たことがあると思って昨日の出来事を思い返したアンナは、 確かに、この子と会っていることを思い出した。
「あなたは・・・・・昨日、ハイマのがけで会った子ね?」
「うん!おぼえてくれてたの?」
「もちろんよ♪」
「わあっ!すごい!」
ノイシュは ぴょんと飛びあがって喜んだ。アンナが自分を覚えていたからではない。 話が通じていることに感動したのだ。
「うれしいな!ボクの言葉が分かるのは、クラトスだけと思ってた!」
「クラトスって・・・・・昨日、いっしょにいた人?」
「うん!」
ノイシュは しっぽをパタパタとふって大きくうなづいた。
アンナは、辺りを見回しながら言った。
「・・・・・で?クラトスは、どこに行ったの?」
「知らない!キミを追ってきたディザイアンはやっつけたのに、後は放っておけって言って、 どっかに行っちゃったよ!」
ノイシュは怒った口調でそう言うと、アンナを見て、少しはずかしそうに笑った。
「でも・・・・・ボクは・・・・・キミと、いっしょにいたかったの」
「・・・・・ありがとう」
アンナは、とてもうれしそうに笑った。
ノイシュは、こんなに笑顔のきれいな人間を見たことがないと思った。 その気持ちを伝えようとして、やっと、ノイシュは、彼女の名前を知らないことに気がついた。
「そうだ。ねえねえ。キミの名前は?」
「わたしはアンナ。あなたは?」
「ボクはノイシュ♪」
二人があいさつをすませると、アンナは、ゆっくりと立ち上がって、ノイシュのほほを優しくなでた。
「ノイシュ・・・・・わたしはもう大丈夫よ。クラトスのところへ行ってあげて。きっと、心配してるわ」
しかし、ノイシュは、ぷいと横を向いてしまった。
「イヤだ!ボクはアンナといっしょにいる!ボクの背中に乗せてあげるよ。どこへ行きたいの?」
「そうね・・・・・どこへ行ったらいいのかな・・・・・」
急に、アンナが悲しそうな顔をしてうつむいた。 ノイシュも、すっかり忘れていた大事なことを思い出して、しょんぼりと耳をたらした。
「そっか・・・・・アンナ・・・・・キミ、にげてたんだよね・・・・・・・」
ごめん。ノイシュがそう言いかけたとき、アンナが、何か思いついた様子で顔を上げた。
「ねえ、ノイシュ。わたしね、救いの塔が見える場所に住みたいの。 それから・・・・・できたら、ルインが近いとこ。そんな場所、どこか知らないかな?」
「ええと・・・・・救いの塔と、ルインの近くで・・・・・?」
アンナの言った言葉を もう一度くり返したノイシュは、ふと、 クラトスと二人で行ったことのある場所を思い出した。
「あっ、あるよ!ボク、知ってる!」
「本当?」
「うん!そこは、誰も来ない山の中だよ。そこに、『はいきょ』 っていう家があったよ。 前にクラトスと行ったけど、近くに川もあるし、とってもイイ所だよ!ボクが連れて行ってあげる!」
「ありがとう!」
アンナがノイシュの首にだきついて、それから、彼の口にくちびるをおしつけた。 とてもあたたかくてやわらかい感覚に、ノイシュは、心からうれしい気持ちがいっぱいにわいてきた。
ノイシュはアンナを大好きだと思った。アンナは、クラトスと同じように対等に話しかけてくれるだけでなく、 とても笑顔がきれいで優しい。それに、雰囲気(ふんいき)が、どこかミトスやマーテルに似ている気がして、 それもうれしかった。
アンナはノイシュからはなれると、ずっと自分を守ってくれた大樹にお礼を言ってキスをした。 それから、にっこりと笑って言った。
「ノイシュ、いこっか」
「あっ、アンナ。荷物をわすれてるよ」
「え?」
ノイシュが大樹の根元を鼻で指して言った。アンナはそこに小さな皮のふくろが置いてあるのを見つけると、 手に取って不思議そうにつぶやいた。
「わたし・・・・・なんにも持ってきてないけど・・・・・?」
ざわ・・・・・
アンナの言葉に答えるように、大樹がざわめいた。
「・・・・・え? ゆうべ、クラトスが来たの?・・・・・ここに?」
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |