13、仲直り
「アンナ!」
老婆を見たノイシュが、あわててキバをかくした。
「・・・・・アンナ?」
クラトスは、オウム返しにつぶやいて、目の前に飛びこんできた老婆をじっと見つめていた。 そして、しばらくしてようやく老婆がアンナだと気づいたらしく、はっと目を見開くと、 はじかれたように顔をそむけてマントをひるがえした。
「・・・・・失礼する!」
「まって!」
アンナが、クラトスのうでをしっかりとつかむ。
クラトスは足を止めたが、アンナに背を向けたまま、無言で立ちつくしていた。 その様子があまりにも不自然なので、アンナは心の中で首をかしげた。
(どうしたんだろう・・・・・わたしに見られると、都合が悪いことでもあるのかしら・・・・・)
それにしては、ずいぶん素直に言うことを聞いてくれる。不思議な人だと思って視線を上げると、 のびっぱなしの赤毛が、日の光を受けて まぶしくかがやいていた。
(あ・・・・・赤毛だと思ったけど・・・・・茶色もまじってるんだ・・・・・)
さらさらとなびく髪に心をうばわれたアンナは、ふいに目の前に飛びこんできた白い物に気がつかず、 ノイシュの毛むくじゃらの前足に思いきりはね飛ばされた。
アンナは、後ろむきにたおれて、後頭部を思いきりぶつけてしまった。
「いたっ!!!」
「アンナッ?」
あわてたノイシュが、アンナの顔に鼻をこすりつけてあやまった。
「ごめんね!びっくりさせちゃった?大丈夫?・・・・・本当に、ごめんなさい」
「うん。大丈夫・・・・・でも、ないかな・・・・・・・・・・いたたたた・・・・・」
アンナは、さっそく頭に出来たこぶをなでて苦笑いした。
「こっちこそ、ごめんね。せっかくどーんってきてくれたのに、受け止められなくって ・・・・・クラトスの髪の毛がすっごくきれいで、見とれちゃってて・・・・・」
何気なく言ってクラトスを見ると、一瞬だけ目が合った。その瞳は心配そうにアンナを見ていたが、 アンナが無事だと笑ってみせようとした時には、もう あさっての方を向いてしまっていた。
(・・・・・なんか、カンジわるい・・・・・・・・・)
アンナはそう思ったが、一瞬だけでも心配してくれたみたいだし、それでよしとしようと思った。
「さて・・・・・と」
アンナは、よっこらしょとつぶやいて立ち上がると、洋服や手についた砂を落としてから言った。
「・・・・・今日は、もう店じまいにするわね。お店を片づけたらお買い物をして帰るから、 最後までつきあってね。クラトス?」
「・・・・・私が・・・・・か?」
クラトスが、アンナに背を向けてため息をついた。
「と〜ぜんでしょ。商売のじゃましてくれたんだから。今日、もうけるはずだった分ぐらいは、 タダで働いてもらいますからね!」
クラトスとノイシュが、ちらりと目を合わせた。
「・・・・・これからは、アンナをおこらせないように、気をつけた方がよさそうだね・・・・・」
「・・・・・うむ。 同感だ」
鼻歌を歌いながら雑貨屋へ向かうアンナの後ろで、 彼女ほどおそろしい存在はないことを知った男たちは、ひそひそと話し合い、こっそりと仲直りをしたのだった。
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |