26.語らい
アンナとクラトスは、月明かりに照らされるがけの上で、ぽつり、
ぽつりと会話をしていた。お互いに質問したり、身の上の話をこぼしたりしながら、
二人は、不死花草がさくのを待った。
クラトスは、アンナの様子を気にかけながら、ずっと気になっていたことを口にした。
「アンナ・・・・・その・・・・・ねこにんから聞いたのだが・・・・・体は・・・・・無事か?」
「え?」
アンナが、きょとんとしてクラトスを見た。
「おまえは・・・・・一人の体ではないのだろう?」
「???」
それでもアンナは分からないようなので、クラトスは、せきばらいして言った。
「お腹の赤子のことだ!」
「ああ。それね・・・・・」
アンナは説明しようとしたが、クラトスは、思いきった様子で続けた。
「もし、よければ・・・・・協力させてはもらえまいか?若い女子が一人で子を育てるのはやさしくない。 ましてや、おまえは逃亡中の身だ。護衛が・・・・・必要だろう。・・・・・もちろん、無償(むしょう)でかまわん」
「クラトス・・・・・」
アンナは、ついふき出してしまった。口べたなクラトスが、理路整然と口早に説明するのだ。 このセリフを言うために、どれだけ考えて何度練習したのだろう。そう思うと、おかしくて仕方なかった。
アンナは、できるだけクラトスを傷つけないように、申しわけなさそうに首をすくめて言った。
「あのね・・・・・それ・・・・・まちがいなの」
「・・・・・何?」
案の定、とてもおどろいた顔がアンナを見る。アンナは、足元を見てぼそぼそと続けた。
「あの・・・・・ねこにんの里に、なかなか入れてもらえなくて ・・・・・つい・・・・・ちょっと、口からでまかせを・・・・・・・・・・」
「でまかせ・・・・・だと?」
「ごめんなさい!」
アンナは、目の前で両手を合わせて頭を下げた。
「では、子を宿しているというのは・・・・・・・」
「ウソです!」
「・・・・・では・・・・・つ、つれあいの話は・・・・・・・・・・・・」
クラトスは、もつれる舌をしかりつけてたずねた。彼にしてみれば精一杯の勇気を持って言ったのだが、 アンナは、きょとんと首をかしげてしまった。
「・・・・・つれあいって、何?」
「配偶者(はいぐうしゃ)のことだ。おまえは、結婚していたのではなかったのか?」
「あ・・・・・」
アンナは、本当にすまなさそうに顔をしかめた。それを見たクラトスは、 ねこにんから聞いた内容がすべて作り話だということを知った。
アンナは、何度も頭を下げてあやまった。
「本当にごめんなさい!まさか、あなたがそこまで心配してくれると思ってなかったから・・・・・」
「・・・・・もうよい!」
クラトスは、ぶっきらぼうに言ってアンナに背を向けた。
(まったく・・・・・迷惑な話だ・・・・・)
そうは思うが、心のどこかで安心している自分がいて、クラトスは苦笑した。
次にかける言葉を探そうと視線をさまよわせたクラトスは、 月が天高くのぼっていることに気がついてアンナを呼んだ。
「・・・・・時間だ。そろそろ花がさくぞ」
「本当?」
アンナは、がばりと花の前に座った。クラトスも、じっと様子をうかがう。
アンナが、花を見つめたまま言った。
「・・・・・ねえ、クラトス。あなたも、願いをかけましょうよ」
「いや・・・・・願いをかけられるのは一度につきひとつだ。それに、私は・・・・・願いをかけたことがあるのでな」
クラトスが鼻で笑うと、アンナは、少しだけふり向いてたずねた。
「願い事は、かなった?」
「・・・・・そうだな」
クラトスはあいまいに答えた。かつて願いをかけた時は戦争の終結を願い、その願望はかなったといえた。しかし、今では、また新たな争いが生まれている・・・・・
(アンナは、何を願うのだろうか・・・・・)
(まさか・・・・・一日も早いエクスフィアの完成・・・・・などと言わんだろうな・・・・・)
一抹の不安がクラトスの脳裏をよぎる。
アンナは、息をするのも忘れて花に見入っていた。
やがて、二人の頭上に月がさしかかったころ、静かに花が開いた。
「・・・・・花が!」
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |