アンナ〜出会い

2、出会い


ピクり。

突然、男のわきで眠っていたけものの耳が動いた。緊張(きんちょう)した様子で顔を上げると、 白いけものが男を見た。

「クラトス!」

「・・・・・ああ」

クラトスと呼ばれた男は、低く、小さく答えた。そして、注意深く耳をすましながら、 ゆっくりと右手を剣へのばす。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

どこかで気配がした。生き物の気配だ。あらあらしい息づかいと、必死に走る足音が聞こえる。

(・・・・・どこだ?)

クラトスは、神経を集中させるために目を閉じた。

次の瞬間、かん高い女性の声が谷にひびいた。

「そこのキミっ! 受け止めて!」

反射的に空を見上げる。声は、頭上から聞こえたのだ。

「・・・・・!」

クラトスは一瞬、目を疑った。空から、人が落ちてくる・・・・・!

なぜ・・・・・と、考える間もなく、彼の足は地面をけっていた。

ふわり・・・・・

飛び上がったクラトスの背中に、一対の青い羽がのびた。鳥のようにのびやかで、 空気にとけたようにうすい羽だ。

きらきらとかがやく美しい羽は、しっかりとクラトスの体を支えて、ぐんぐん上空へと導いていく。

「!!!」

「・・・・・・・・・・」

二人の距離(きょり)が近づく。落ちてきたのは、若い女だ。

一瞬、お互いの目が合った。

クラトスは、ただ、相手の体をつかまえることだけを考えて両うでをのばした。

クラトスを瞳に映した女は、大きな目をいっぱいに見開いていた。 しかし、その顔は、おどろきよりも、安心して笑っているように見えた。

細く、白いうでがのびる。

もう少しで、届く・・・・・!

お互いの指がふれた次の瞬間には、クラトスは、空からの落し物をしっかりとうでの中につかまえていた。

小さな体は細くてかたく、服もぼろぼろで、長い茶色の髪はすっかり乱れている。 どこから落ちてきたのだろうと身動きすると、落ちると思ったのか、女は、 必死になってクラトスの首にしがみついてきた。

女の力があまりにも強く、息ができなくなったクラトスは、苦しくてまゆをひそめた。

「・・・・・はなしはしない。だから、力をゆるめてくれ」

あ・・・・・小さくつぶやいて、女は、うでの力をぬいた。

ほっと小さな息をはくと、クラトスは、ゆっくりと、静かに地上へもどった。

ふわり、と 地面に足をつける。

背中の羽が、すうっと風にとけて消えた。 

+次のページ+

P.2  1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 25. 26. 27. 28. 29. 30. 31. 32.

お話トップへもどる アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』
copyright(c) kiyotoshi-sawa All rights reserved.