20、ねこにんの里
アンナは、ねこにんの里でのんびりとつりをしていた。ここへ来てから早くも1ヶ月。
どこかの街に行けばディザイアンやクラトスに見つかってしまうおそれがあるので、
誰も知らないかくれ里、ねこにんの里へ来たのだった。
彼女は、ここで死をまちながら残りの人生を過ごそうと決めていた。 とはいえ、特別にすることもなく、第一、住人が寝てばかりいるねこにんなのだから、 つられてのんきになるのは自然なことだった。
「ア〜メ〜ジング グレ〜ス♪」
アンナは鼻歌を歌いながら、静かに動く波を見ていた。
(・・・・・わたし・・・・・死んだら、海に流してもらおうかしら・・・・・)
それも悪くない。人間牧場で虫けらのように殺されていった仲間を思えば、 自分はなんて幸せなんだろうとアンナは思った。
「アンナ〜!」
そこへかけつけて来たノイシュが、どかりとアンナにとびついた。
「ノイシュ。どうしたの?」
「クラトスのニオイがするよ!近くまで来てるみたい!」
「えっ?」
アンナは おどろいた声をあげた。
「近くにいるの?・・・・・だから、早く帰ってって言ったのに・・・・・ ノイシュが帰って来なかったら、心配して、さがしに来るに決まってるじゃないの」
「ごめんなさい〜・・・・・」
ノイシュは小さくまるくなってあやまった。
「どうしよう・・・・・かくれる?」
「う〜ん・・・・・かくれなくてもいいわよ。それで、もし、彼が来たら・・・・・会うわ」
アンナは、はっきりと言った。
「二度と会えなくなる前に一度きちんと話をしておきたいし・・・・・ まだ、クラトスがここに来るって決まったわけじゃないしね」
「うん・・・・・ごめんね」
「どうしてあなたがあやまるの?わたしを心配して、残ってくれているんでしょう?」
アンナは、優しく言ってノイシュの鼻をなでた。
ピクピク!
突然、さおの先が動いた。アンナは あわててさおをつかむと、 しんちょうにあたりを合わせて ゆっくりさおを立てた。
「うふふ♪大物ゲットかしら〜!」
「モンスターじゃないとイイね」
「ノイシュ、一言多いわよ」
大物がつれた場合、じょうずにさおを立てないと糸が切れてしまうのだが、湖の側で育ったアンナは、 つりが得意だった。ぐいぐいと引っぱる相手でも簡単に海岸まで引きよせて、 あとはノイシュにつかまえてもらったのだった。
「モガモガモガ・・・・・!」
大きな魚を口にくわえたノイシュが、にこにこ笑ってアンナにかけよって来る。 アンナも満足そうに笑うと、ノイシュに魚をくわえてもらったまま海辺を後にした。
「このまま塩焼きにしましょ♪」
「フガフガ〜!(わ〜い)」
アンナが広場へ行くと、魚のにおいにつられてたくさんのねこにんが集まって来た。
アンナは、焼きあがった魚から三人分だけ身を取ると、あとは全部ねこにんにあげてしまった。
「それだけでいいの?」
ノイシュが、少し残念そうに言った。
「いいのいいの♪昨日のおかずも残ってるでしょ」
「そうだけどさ〜。まあ、ボク、そんなアンナが好き!」
「ありがと♪」
ぶらぶらと歩いたアンナは、小高い丘の途中で足を止めた。
「よし。今日は、ここでごはんにしましょ」
「わ〜い。お腹ペコペコ〜!」
ねこにんは、基本的に外で寝る上、その時の気分で寝る場所を変えるため、 この里には宿屋がなかった。だから、どこで寝ても、どこで食べても、誰も何も言わないのだ。 アンナは、この生活をいたく気に入り、毎日好きな場所で食べたり寝たりしていた。
アンナは、見晴らしの良い場所に座り、ときどき、あちこちに目をやりながらノイシュと話していた。 ここなら、クラトスがどこから来てもよく見えるはずだ。
(ま、白いから、すぐに分かると思うけど・・・・・)
そう思ったアンナだったが、風の向きが変わって何気なくふり返った先に 赤毛の男が立っているのを見つけて仰天(ぎょうてん)した。
「!!・・・・・クラトスッ???」
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アンナと父様-長いお話『アンナ〜出会い』 |