アンナ〜出会い

21.再会


「クラトス!」

そこに立っていたのは、まちがいなくクラトスだった。少しはなれた場所に立つクラトスは、 一ヶ月前に別れた時とまったく変わっていなかったが、ただひとつ、目印になると思っていた服が、 ガラリと変わって地味になっていた。

深い青い色の服が、夜の空にとけこんでいる。それは、アンナが彼のために作った服だった。

「その服・・・・・着てくれたのね!」

アンナは、思わずかけだしてクラトスに飛びついた。 

「・・・・・!」

アンナのルイン風あいさつをかわそうと顔をそむけたクラトスだったが、 アンナは、それも予想していたかのように自然にクラトスの前に現れる。 そして、にっこりと笑って・・・・・キスをした。

「うれしい!大きさはどう?きつくない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アンナが服の様子をチェックしている間、クラトスは、身動きひとつしないでその場につっ立っていた。

あちこちながめていたアンナが、ふいに顔をくもらせる。

「やだ・・・・・かたがせまかったわね・・・・・」

「そんなことはない・・・・・ちょうどだ」

クラトスがぼそりと言った。

「それは動かないからよ。戦ったりしたら、きっとやぶれちゃうわ。 ・・・・・だけど、もう、布がないのよね・・・・・・・・・」

アンナは、じっと服をにらんで考えた。上半身のサイズはぴったりなのだが、かたのはばだけがせまいのだ。 そでは長そでなので、うでを上げただけで破れるかもしれなかった。

「じゃあさ〜、やぶれそうなら、やぶっとけば?さいしょっから〜」

ノイシュが笑って言った。

「?・・・・・そっか。最初っから破れてたらいいのよ!」

アンナはぽんと手をたたいて、クラトスのつめえりに手をのばした。

「クラトス。お直しするから、ぬいでくれる?」

「ぬっ!?・・・・・こっ、ここでか?」

アンナの手をはらいのけたクラトスは、一歩さがって言った。

「わ、私は・・・・・着がえを持っていないのだ。悪いが、仕立て直すのは次回にしてくれ」

「じゃあ、着たままでもいいわよ」

アンナは、あっさりと笑って言った。

「わたし、仕立て屋さんを目指してたの。すっごくうまいから、まかせといて!」

「アンナ〜。先に、ごはんにしようよ〜」

ノイシュがアンナのかたにどっかりと手(?)を置いて不満げに言った。

「そうね。じゃあ、今、そでだけ外しちゃうわ。ノースリーブになっちゃうけど・・・・・寒くない?」

クラトスは返事しなかった。それを 「OK」 のサインだと思ったアンナは、 慣れた手つきでそでを外した。そして、用意していたもう一人分の食事をクラトスに差し出して言った。

「はい。今日は、大きな魚がつれたの。塩焼き、とってもおいしいから食べて♪」

「・・・・・・・・・」

クラトスはかすかに目を見開いてアンナを見た。なぜ、 私が来ると分かったのだ?クラトスの瞳はそう言っていた。

「・・・・・ノイシュを連れもどしに来たんでしょう?ちゃんと、帰すつもりだったのよ」

「ボク・・・・・クラトス・・・・・アンナ・・・・・ごめんなさい・・・・・」

ノイシュは、キュ〜ンと鼻で鳴いて二人にあやまった。

「もう。だから、あなたがあやまることないんだってば」

アンナはノイシュの首をがしがしとかいてやると、クラトスを見て明るく笑った。

「また会えてうれしいわ。・・・・・一度、あなたと、ゆっくり話したかったの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アンナは、おしだまったままのクラトスを気にする様子もなく、 自分の首にかけていたペンダントを外してクラトスに差し出した。

「・・・・・ねえ、クラトス。取り引きしましょう」

「・・・・・?」

クラトスが横目でアンナを見た。クラトスは、差し出されたペンダントを受け取ろうとしなかったが、 じっとそれを見てつぶやいた。

「・・・・・その色は・・・・・プラチナか?ふつうの人間が手にすることは許されていない貴重品のはずだ。 どこで手に入れた?」

アンナは、クラトスの反応に満足して続けた。

「これは、わたしの家に古くから伝わる品よ。わたしね、マナの血族なの。・・・・・ これを売れば、一生遊んでくらせるわ」

「・・・・・そうだな」

クラトスは、まったく感情のこもらない声でそう言った。

アンナは、胸にいっぱいの空気をすいこむと、今日この時のために 心の中でずっと練習していた笑顔を作って言った。

「・・・・・これを、あなたにあげるわ。その代わり・・・・・わたしの最後を、みとってほしいの・・・・・」 

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