27、人を愛するということ
「ノイシュ・・・・・」
クラトスは、庭でまるくなっているノイシュのそばにひざをつくと、やさしく頭をなでで言った。
「・・・・・めいわくをかけたな」
「ホントだよ〜」
ノイシュは、差し出されたクラトスの手に、エクスフィアをぺっとはきだした。
一度は取り上げられたエクスフィアだが、アンナは、クラトスが全快した時点で、また外してノイシュに返してくれたのだ。男の約束を守るために。
「・・・・・すまなかった。ありがとう」
クラトスが、ふかぶかと頭を下げる。
「いいけど・・・・・二度とアンナを悲しませるマネをしないでよね〜。ぼく、次からは、アンナの味方をするからね」
ノイシュは、じろりとクラトスを見て言った。
「ああ・・・・・そうだな」
クラトスは、そう言って苦笑した。
ちょうどクラトスがエクスフィアを装備したとき、3人分のコップを持ったアンナが、小屋から出てきた。
「クラトス、ノイシュー」
「どうした?」
「たまには、3人でお話しましょ」
「わあ、さんせい!」
アンナは、ノイシュのお腹にもたれると、目の前に立つクラトスを見上げて首をかしげた。
「・・・・・ねえ、クラトスの国では、一緒にお祭りに行く意味は、なんだったの?」
「ああ・・・・・あれか・・」
そう言って、クラトスは、少しでもアンナの心配をへらそうと、努めて言葉を増やした。
「あれは、私の国では、特に意味はない。・・・・・ただ、人から聞いたのでな。・・・・・・・・・・ルインの風習を・・・・・」
「えっ!?・・・・・ほんと?」
アンナが、顔を赤くしてクラトスを見た。
「・・・・・じゃあ、じゃあ、クラトスは、エクスフィアを外して・・・・・・一体、何をしたかったの?」
「・・・・・フ」
クラトスは、思わず笑みをもらした。
アンナは、『なぜ』とは聞かない。クラトスの行為を受け入れた上で、さらに理解しようとしてくれている。
クラトスは、一対一で、アンナと対面して相互理解をはかろうと努力してきたが、彼女は、いつでもかたを並べて、同じ方向を向いて歩いてくれている。クラトスとは、根本的な姿勢がちがうのだ。
これでは、かなうわけがない。
クラトスは、エクスフィアを外そうと考えた自分の心の弱さをはじた。
しかし、心配をかけた以上、話さないわけにはいかないだろう。それが、自分にとって、どれほど言いにくい内容であっても・・・・・
クラトスは、コップを持つ手に力をこめた。
「・・・・・・・・・・最後の、チャンスだった」
「・・・・・?」
アンナが、クラトスを見上げる。
クラトスは、そう思っていたことを、はるか昔の出来事のように、遠い存在に感じながら続けた。
「おまえが指輪を受け取ったのは、私に恩を受けた義理だと思っていた。しかし、私は、こういう性格だ。途中で、おまえの気持ちが変わったとしても、引き返すことなど出来ない。・・・・・だから・・・・・・・・・・・・」
「なるほどね」
アンナは、困って、笑って、ため息をついた。クラトスの気持ちが分かってしまったのだ。
考え直すなら、今のうちだ。
クラトスは、そう言いたかったのだろう。
クラトスは、エクスフィアを外すという、最も知られたくない姿を見せることで、アンナの心をはかろうとしたのだ。
アンナは、おこっていいのか、あきれていいのか、分からなくなって・・・・・笑った。
「・・・・・バカ」
「・・・・・・・・・・・・・・・すまなかった」
「二度とやったら、次は、考え直しますからね」
そう言って、アンナは、ふと思いついたことを聞いてみる。
「ねえ、クラトス。そういえば、指輪をもらった後の手順なんだけど・・・・・」
「・・・・・ああ」
クラトスは、アンナを見て、口のはしを上げた。
「気にするな。・・・・・私の国は、もう、ないのでな」
「あら。ずいぶんな変わりようだこと。クラトスも、進歩したってことかしら?」
アンナがノイシュに言うと、ノイシュは、ぼそりと言った。
「都合よく言ってるだけじゃない?」
「あははは。わたしも、そう思うわ〜」
「・・・・・おまえたちは・・・・・・・」
クラトスは、ため息をついた。しかし、気になっていながら、なかなかたずねられなかったことを、今、聞いてみる。
「・・・・・では、ルインでは、どうするのだ?」
「ルイン?そうねえ〜」
アンナは、空を見上げてじっと何か考えこんでいたが、やがて、クラトスを見て、にっこりと笑った。
「もう、わたしも気にするのはやめるわ。ルインに帰ることもないしね。それより・・・・・」
立ち上がったアンナは、クラトスの手をとって、自分の指をやさしくからませた。
「これから、二人で作っていきましょうよ。・・・・・・新しい、未来を」
「ああ・・・・・そうだな」
そうつぶやいて、クラトスは、からんだ指をにぎりしめる。
決してはなさないと、想いのすべてをこめて。
「クラトス・・・・・」
アンナは、あふれるなみだをこらえて、彼の耳元に、そっとささやいた。
「ずっと・・・・・いっしょよ」
ずっと・・・・・ずっと・・・・・いつまでも・・・・・・・・・・・・
お・し・ま・い
歌:メモリー
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アンナと父様-長いお話『人を愛するということ』 |