16、母と父
アンナは、いざとなったら、本当にパルマコスタ人間牧場まで行く かくごを決めて出発したが、意外にも、小屋を出てすぐに、二人の旅は終わりをつげた。
「あなたは・・・・・」
アンナの目の前に、赤ちゃんのお母さんが立っていた。泣きはらした赤い目をして、悲しみに打ちひしがれた顔は、今にも たおれそうなぐらい やつれている。
女性が、ふるえるうでを差し出して言った。
「・・・・・その子を・・・・・その子は・・・・・」
「やっと、むかえに来てくれたのかい?」
アンナがやさしくほほ笑むと、女性は、それまでずっと張りつめていた糸がぷつりと切れたように、その場に わっと泣きくずれた。
「私は・・・・・私は、なんてことを・・・・・!」
アンナは、ノイシュの背中から降りると、女性のうでに赤ちゃんをだかせて言った。
「・・・・・もう、いいんじゃよ。 あなたはここへ来たんだから。・・・・・大変だったじゃろう?」
「・・・・・ごめんなさい。 ごめんなさい・・・・・!」」
女性は、赤ちゃんをだきしめて、何度も何度もあやまった。
「あう〜あ〜」
母親が泣いているというのに、ほおずりされた子供がにこにこと笑い出す。
「ほら、見て。やっぱり、お母さんのそばが一番ってことよ。ねえ、ノイシュ?」
アンナが言うと、ノイシュは、ふてくされて言った。
「そりゃ、そうだと思うけど〜」
アンナとノイシュは、しばらくの間、再会を喜ぶ親子の姿をながめていた。
次に女性が顔を上げた時、その表情はすっかり落ち着いていた。
女性が、ふかぶかと頭を下げて言う。
「・・・・・お二人とも、本当にありがとうございました。約束の場所であの人に会えず、つい、取りみだして・・・・・この子を、置き去りにしてしまったんです・・・・・」
「あの人?」
アンナがたずねると、女性は、声をつまらせて言った。
「この子の・・・・・父親です」
「ええっ!」
アンナは、あわてて問い返した。
「会えなかったってどういうこと?彼は死んじゃったの?」
「・・・・・わかりません」
「分からないってどういうことよ!あなた、会う約束してたんでしょう!?」
「ちょ、ちょっと、アンナ!」
仁王立ちになって女性につめよるアンナのスカートを、あわててノイシュが後ろに引っぱる。
「アフガフガフガ〜!(アンナ、落ち着いて〜!)」
「どうしようもなかったんです・・・・・彼は、ディザイアンから追われていて、二人で、人里はなれた場所へにげようとしていた矢先・・・・・彼は、約束の場所へ、来なかった・・・・・」
「そうだったの・・・・・」
なみだにふせる女性をじっと見ていたアンナが、おもむろにノイシュをふり返った。
「ねえ、ノイシュ。あなたって、何人乗り?」
「ええっ!?」
ぼく、乗り物じゃないもん。ノイシュはそう言いたかったが、有無を言わさないアンナの迫力に負けて、しょんぼりと答えた。
「・・・・・アンナと、その人と、赤ちゃんぐらいなら、大丈夫だと思うよ〜」
「ありがとう!あとで、いっぱいお礼するね!」
白い友に素早くキスすると、アンナは、急いで女性の手を取って立ち上がらせた。
「・・・・・行きましょ」
「ど、どこへ?」
「約束の場所。もしかしたら、昨日、今日に、彼が来るかもしれないじゃない?」
そう言って、アンナは、力強く うなづいた。
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アンナと父様-長いお話『人を愛するということ』 |