人を愛するということ

5、親をさがして


次の日の朝、老婆にへんそうしたアンナは、ノイシュと二人で、すっかりきれいになった赤ちゃんを連れてアスカードに来ていた。身よりをさがすためだ。

この街を選んだのは、赤ちゃんを見つけた場所から一番近いというのと、もうひとつ、赤ちゃんのおくるみの布が、アスカード織りという、この地方特産のものだったからだ。おそらく、赤ちゃんはこの街の子供だろう。二人はそう考えていた。

「あんな高い場所にいたってことは、モンスターや、大きな鳥にさらわれたのかもしれないね〜」

ノイシュが、背中に乗っているアンナに言った。

「うん。わたしもそうかなって思うわ。だとしたら、ご両親はとっても心配しているわね」

アンナは、すやすやと気持ちよさそうに眠る赤ちゃんの顔をのぞきこんで言った。初めて会ったアンナが見ても、こんなにかわいらしく愛しいと思えるのだ。きっと家族は、ねる間もおしんで必死に行方をさがしているだろう。

ところが、アンナの期待は大きく外れた。

街中の人に聞いても、そのような赤んぼうは見たことがないというのだ。その上、最近この街で生まれた子供もいないと聞かされたアンナは、他に行くあてを失ってしまった。

「おかしいなあ・・・・・この街の子じゃないとしたら、一体、どこから来たのかしら?」

アンナは、赤ちゃんにミルクをあげながら、やれやれとため息をついて空をあおいだ。二人は、山小屋へ帰る前に街の近くにある救いの小屋へ来て休けいしていたが、そこへおとずれる人もみんな赤ちゃんを知らないようだった。

「もしかしたら、その子は、ナイショの赤ちゃんなのかもね〜」

ノイシュが、何気なく言った。

「ナイショの赤ちゃん?」

アンナが首をかしげる。

「そうだよ。だって、その子、ハーフエルフでしょ」

「ええっ!?」

アンナは、さらりと言ったノイシュの言葉に、哺乳ビンを落としそうになるぐらいおどろいた。

「だって、この子、耳、とんがってないわよ?」

アンナがたずねると、ノイシュは、きょとんとして説明してくれた。

「そりゃあ、ハーフっていうからには、人間の血がまざるからね。見た目は分からない人も多いよ。ぼくは、マナが見えるから分かるんだ。アンナぐらい血がうすくなると分からないのかな」

アンナの遠い先祖にエルフがいるため、アンナはノイシュと会話ができ、簡単な術も使うことができた。しかし・・・・・

「こんなに、かわいいのに・・・・・?」

アンナは、赤ちゃんをじっと見つめてつぶやいた。

ハーフエルフといえば、この世界ではとてもおそれられ、いみ嫌われている存在で、それは、アンナも例外ではなかった。

「ハーフエルフっていえば、人間牧場で見たディザイアンしか知らないけど・・・・・」

ハーフエルフは、人間を虫ケラのようにあつかい、子供や老人の命をうばっても顔色ひとつかえない極悪非道な人種だ。いや、そうだったはずだ。

ぶるりと背筋が寒くなったアンナは、赤ちゃんをぎゅっとだきしめた。

(もしかして・・・・・わたし、かんちがいしてた・・・・・?)

アンナの心に、おそろしい考えがうかぶ。

この子は、とても愛らしく、人間の子供とちがうところなど、どこにもないではないか。

しかし・・・・・・・・・・

(この子が、ハーフエルフだとしたら・・・・・)

「ねえ、アンナ。その子、すてられたのかもね」

ノイシュが、アンナの悪い予感をそのまま言葉にする。どきりとしたアンナは、冷たくなった自分の心臓をあたためようと、われ知らず胸に手をあてた。

「うそ・・・・・信じられない・・・・・こんなにかわいらしい子をすてるなんて・・・・・」

「本当だよ。こんなにかわいいのに・・・・・・・・・・あれ?」

おこったように言ったノイシュが、ふと空を見上げた。

「なあに?」

アンナがノイシュを見ると、ノイシュは、とても真剣な顔をしてしきりに鼻を動かした。

「アンナ!この子と同じニオイがする!」

「えっ?」

どこから?と、アンナが言うより早く立ち上がったノイシュが、ものすごい勢いでかけ出した。あわてたアンナも、急いで後を追う。

「そこだ〜っ!!」

ノイシュは、導きの小屋の裏を目指して突進すると、後ろ足で思いきりジャンプして、そこに見えた人影にどかりと飛びついた。

「つかまえたよ〜っ!アンナ、アンナ〜ッ!」

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