人を愛するということ

18、ディザイアン


「アンナ〜!もうすぐだよ〜っ!」

ノイシュは風のようにかけながら、背中の上にいるアンナに言った。

アンナは、赤ちゃんをだいた女性と一緒にノイシュに乗せてもらい、ハコネシア峠(とうげ)の近くにいるという竜車を目指していた。女性の話では、竜車にかくまってもらい、二人でにげる手はずだったというのだ。

「お願い〜・・・・・来ててよね〜!」

「アンナさん・・・・・」

女性の名はべスといった。子供の名前はクリス。クリスと聞くと、ノイシュが声をあげて笑った。クラトスの子供のころのよび名と同じだというのだ。

「へえ〜。じゃあ、これからは、わたしもクラトスのこと、クリスってよぼうかな」

アンナが言うと、ノイシュは あわてて言った。

「やめてよ〜!もう、ぼく、最近、いらないことを言うなって、おこられてばっかりなんだから!」

「あははは!」

やがて、ハコネシア峠をこえると、ノイシュは海を目指して走った。まだ移動していなければ、海岸のそばに竜車がいるはずだ。

「・・・・・見えないなあ」

ノイシュが、走りながらつぶやいた。

アンナは、ノイシュの耳に向かってさけんだ。

「とにかく、行ってみて!そこにいなければ、近くをさがしてみましょう!」

ごうごうとふく風が耳元を通りぬけ、めまぐるしく変化していた景色が、ふいに、ぴたりと止まった。

「・・・・・ここだよ」

ノイシュが、背中の上の二人に言った。

アンナとべスが辺りを見まわしても、竜車のかげはない。どうやら、すでに移動した後らしかった。

アンナは、周りを警戒(けいかい)しながら言った。

「ノイシュ。 この辺に、血のにおいとか、ディザイアンのにおいとか、する?」

「ちょっとまって・・・・・」

ノイシュは、くんくんと辺りのにおいをかいでみると、すぐに顔をあげて、首を横にふった。

「新しいニオイは、ないみたい・・・・・ん?」

ぴくり、と、ノイシュの耳が動いた。アンナとベスが見ると、ノイシュはじっと耳をすまして・・・・・ぴょんと飛びあがった。

「うわあ!ヨロイの音がする!いっぱい!」

「ディザイアンかしら?にげなくちゃ!」

アンナが あわててベスのうでをつかむ。しかし、ベスは、うでをふりほどいて言った。

「待って下さい!彼は・・・・・彼は、ディザイアンなんです!」

「ええ〜っ!?」

「あなた、勇気あるわね〜・・・・・」

思わず感心したアンナが言うと、ノイシュが横から口をはさんだ。

「ぼく、クラトスを選んだアンナのほうが、よっぽど勇気あると思うけどなあ」

「ノイシュ、そんなこと言ってる場合?それより、いっぱいって、どういうこと?彼が、追われているかも・・・・・ってこと?」

「そんな!」

そうこうしているうちに、突然、目の前の森の中から一人のディザイアンが飛び出して来た。かぶとはぬげ、髪から顔まで血まみれの男だ。男を見たとたん、ベスが真っ青になって悲鳴を上げた。

「ウイング!!!」

「彼ね?」

「ああ・・・・・!」

男の元へかけ出そうとしたベスのうでを、とっさにアンナがつかんだ。

「はなして! はなしてください!」

アンナは、ベスを軽々と引きずって、ノイシュの前に立った。

「ノイシュ!ベスとクリスを連れて、ハコネシア峠でまってて。わたしは、ウイングを連れて行くわ!」

「ええっ!!??」

「しかたないでしょ。 あなたが、ディザイアンと戦う?」

「ムリだよぉ〜!」

「じゃあ、ベスをお願いね。・・・・・いい子ね。あとで、いっぱいお礼するわね」

「・・・・・アンナ!絶対だよ!絶対、絶対に、帰って来てね!」

「もちろん、その気!」

アンナはノイシュに口づけすると、ウイングに向かって走り出した。

ウイングは、ベスと竜車をさがしているのだろう。追っ手を気にしながら、必死に辺りを見回している。

アンナは全力で走りながら、自分の姿が老婆だということをすっかり忘れて言った。

「ウイングさん!わたし、ベスの知り合いです!」

「・・・・・?」

ウイングは、一瞬いぶかしげにアンナを見たが、ベスの名前に気を許したのか、すぐにアンナのそばへ走りよった。

「ベスは? 彼女は、無事ですか?」

「元気よ。ハコネシア峠であなたを待ってる。だけど・・・・・先にこっちを片付けなくちゃ、行けないと思わない?」

アンナはそう言いながら、森の中から姿を現した追っ手の数を数えていた。

(1,2,3・・・・・4人・・・・・よし、なんとかなる!・・・・・かな?)

「あぶない、下がって!」

ウイングがアンナを背中にかばった。しかし、アンナは、ウイングの横に歩み出て言った。

「あなたは、剣メインで戦ってくれる?わたしが魔法でえんごするわ。ただし、殺さないでほしいの。彼らは、仲間なんでしょう?」

ウイングが、おどろいてアンナを見た。

「あなたは・・・・・一体?」

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