人を愛するということ

24、アスカードを後に


「クラトス、クラトス!あなた、エクスフィアはどこへやったの?どうして外したの!!」

いくらアンナがさけんでも、クラトスは答えなかった。

アンナは、とめどなくあふれるなみだをうででぬぐうと、残った半分のグミを自分の口に入れ、こみあげるおえつを殺しながら、かみくだいた。

なみだをこらえようとすればするほど、よけいに胸が熱くなって、ますますあふれだす。

(バカ・・・・・バカ・・・・・クラトスの、大バカッ!!!)

アンナは、そのままクラトスに口づけると、のどの奥へ、グミを流しこんだ。

「う・・・・・」

クラトスが小さくうめく。本来の彼なら、すぐに回復して立ち上がれるはずなのに、少しも顔色が良くなる気配はない。エクスフィアがないと、人間は、こんなにも弱いものなのか。

このままではらちがあかないと判断したアンナは、遠まきに様子をながめている人々に声をかけた。

「すいません!だれか、お医者さまはいますか?」

しかし、人ごみは答えようとしない。だれ一人として。

「・・・・・?」

ようやくアンナは、自分に向けられた視線がおびえていることに気がついて首をかしげた。今どき、血まみれシーンなど めずらしくもないというのに、一体、どうしたのだろう?

「仕方ないわね。とりあえず、宿屋に行かなくちゃ・・・・・」

アンナは、軽々とクラトスをだきあげて町の奥へ進もうとした。しかし、目の前に ひゅんと飛んできた小さなかたまりが、彼女のほほをかすめて足を止めた。

「え?」

見ると、小さな子供が、手に石をにぎりしめてアンナをねらっていた。

「来るな!ハーフエルフめ!」

「え?なに?だれが?」

アンナはきょろきょろとあたりを見回したが、他には誰もいない。

母親らしき女性が、子供をかかえあげ、アンナをにらんで、人ごみの中へ消えた。

「うわ・・・・・これは、やばいカンジかしら?」

アンナはようやく、クラトスが魔法を使うなと言った言葉の意味が分かった。

「町長!あそこです!」

人ごみを分けて、一人の男が歩み出た。

男は、おそろしい顔をして、にくにくしげにさけぶ。

「・・・・・おまえがモンスターをよんだのだろう。この、ハーフエルフめ!」

「ちょっと!ちょっとまって・・・・・なんて、言ってる場合じゃなさそうね」

アンナは、じり、と後ずさると、スキを見て走り出した。このままだと、つかまって何をされるか分からないと思ったからだ。

「まて!にがすな!」

「まてって言われて、まつわけないでしょ?」

アンナは、クラトスをかかえているとは思えないほどのスピードで街の外へ飛び出した。辺りは真っ暗で、ふつうの人間なら、足元もよく見えないにちがいない。

しかし、エクスフィアをつけているアンナには、遠くから走りよるノイシュが見えた。

「アンナーッ!」

「ノイシュ!こっち!」

アンナは、急いでノイシュに飛び乗ると、アスカードを後にした。

「もう・・・・・とちゅうまでは、いいカンジだったのに〜」

しかし、魔法を使って人々をおどろかせてしまったのは自分の責任だ。アンナは反省しながら、ぐったりと身をよりかからせるクラトスの体を、しっかりと支えた。

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