25、エクスフィアのかくし場所
アンナは、小屋にもどると、すぐにクラトスを寝かせた。いやしの魔法や、回復アイテムを与えるという行為は、人間の体には効果がうすいとさっきの戦闘で分かったが、アンナは、自分の知っている ありとあらゆる方法をクラトスにほどこした。
そして、それが一段落ついてから、アンナは、なぜか部屋に入ってこようとしないノイシュをさがしに外へ出た。そういえばノイシュは、今朝からずっと、アンナをさけているようだった。
「ノイシュ、ノイシュ!」
「・・・・・なあに?」
しょんぼりと耳をたらしたノイシュが、草むらからごそりと出てきてアンナを見た。
アンナは、四の五の言わさない強い口調で言った。
「・・・・・彼のエクスフィアを、返してちょうだい」
「・・・・・な、なんの話?」
ノイシュは、目をぱちぱちさせて言う。
「しらばっくれてもダメよ。クラトスが大事な物をあずけられる相手って、あなたしかいないじゃない」
アンナが言うと、ノイシュは、黒い瞳をふせて、こまった様子で地面をひっかいていたが、しばらくして、きっと顔を上げて言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメ!」
「どうして?」
「男の約束なんだ」
なにが男の約束だ。すっかりあきれたアンナは、ノイシュのほほを両手でつかんでたのんだ。
「ノイシュ・・・・・いいかげんにして。そんなつまらない約束で、クラトスが死んじゃってもいいの?」
「それは、イヤだけど・・・・・」
そうは言ったが、ノイシュは、言うことを聞く気配をみせてくれない。
アンナは、やれやれとため息をついた。
「あ、そう。わかったわ。もう、たのまない。・・・・・いいわ。かわりに、わたしのエクスフィアを、彼にあげるから」
「それもダメー!!!」
ノイシュは、ふせた耳を、首のうしろでくっつけて悲鳴をあげた。
「ノイシュ、お願いよ・・・・・彼は、わたしのすべてなの。もし、彼に何かあったら、わたし、生きていく意味がなくなっちゃう。・・・・・・・だから、返して」
しんぼう強くたのみこむと、とうとう、ノイシュがおれた。
「わかったよぅ〜」
ノイシュは、口の中から、ぺっと石をはいた。まちがいない。クラトスのエクスフィアだ。
「ありがとう。いい子ね」
軽くキスして鼻の頭をやさしくかいてやると、アンナは、急いで部屋にもどって、クラトスのそばにすわりこんだ。全身に薬草をはりつけられたクラトスは、意識を失ったまま眠り続けている。
(クラトスって、かしこいけど、おバカよね・・・・・)
失礼だとは思いながら、アンナは、そう思って苦笑した。
この男は、分かっているのだろうか?
この石があったからこそ、二人は、4千年という気の遠くなるような時間をこえてめぐり会えたのだ。その大切さが分かっているのなら、石を外すというバカなマネはしないだろうに。
アンナは、手に持ったエクスフィアに、そっと口づけた。
(・・・・・クラトスを・・・・・助けてあげてね)
静かに手を取り、その甲にエクスフィアを置く。すると、みるみるうちに顔色が良くなり、浅い呼吸が、深く静かなものにかわった。
「よかったあ〜・・・・・」
これで、もう安心だ。アンナは、天井を見上げて大きくのびをした。
すうすうと寝息をたてるクラトスを見ていたアンナは、しばらくして、あることに気がついた。
(・・・・・そういえば、寝顔って、初めて見るわね)
もう、二度とおがめないかもしれない。そう思ったアンナは、まじまじとクラトスの顔をのぞきこんだ。
せいかんで男らしい顔立ちはふだんと変わらないが、顔の筋肉をゆるめてまぶたをとじていると、どこかあどけなく見える。もっとよく見ようと思って そっと前髪をかきあげてみると、おどろくほど幼い顔になって、アンナは目を見張った。
(もしかして、いっつも顔をしかめて あちこちにらみつけるのは、これをかくすためだったのね〜)
そうにちがいない。絶対に。
そう思って、アンナは一人で笑った。
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アンナと父様-長いお話『人を愛するということ』 |