23、苦戦
「ちっ!」
クラトスは苦戦していた。他の男たちは、アンナが いやしの魔法を使ってもほとんど効果がなく、次々にたおれてしまって、今、モンスターと戦っているのは、クラトスとアンナの二人だけだった。
「ライトニング!」
アンナは、ダメだと言われたのは覚えていたが、今の自分に出来ることといえば、魔法でえんごするしか方法がなかった。それも、本来なら、苦戦する相手ではないはずなのに・・・・・
「クラトス!がんばって!」
アンナは、必死でクラトスをはげました。
クラトスは、術も技もいっさい使わず、ひたすら剣で相手に切りかかっていた。確かに強いが、いつもと比べて、信じられないほど動きが重い。
「だいじょうぶ?」
いったん引いたクラトスにかけよると、クラトスは、かたで荒い息をつきながら言った。
「・・・・・ああ」
「ファーストエイド!」
アンナがいやしの魔法をかける。しかし、クラトスは、苦しそうに顔をゆがめたまま、ひたいのあせをぬぐって、再び前線へ飛びこんだ。
TPをすっかり消費してしまったアンナは、空に、大地に、いのった。
(お願い・・・・・みんな・・・・・クラトスを守って!)
どうっ、という音をたてて、また一匹、モンスターがたおれた。
残るは、あと二匹。
しかし、組み合うクラトスの背後にいるモンスターが呪文の詠唱を始めたのを見つけたアンナは、とっさにかけだした。
「クラトス!」
「・・・・・!?」
一瞬、クラトスがふり向き、互いの視線が交差した。
アンナは、思いきり地面をけって飛んだ。
(死なせない・・・・・絶対に!!)
次の瞬間、アンナの目の前がまっ白になり、全身をつらぬく激痛が走った。アンナは、自分の体で魔法を受け止めたのだ。
「・・・・・ああっ!」
「アンナッ!」
衝撃(しょうげき)ではじかれ、地面に転がったアンナに、クラトスがかけよる。
「アンナ!しっかりしろ、アンナ!」
「ク、クラト・・・・・」
(わたしに、かまわないで・・・・・)
そう言いたいが、体中がしびれて口が開かない。
「アンナ・・・・・」
クラトスは、アンナの手に小さな何かをにぎらせた。
「おまえは、ここでおとなしく待っていろ。すぐに片をつけて、むかえに来る」
クラトスはそう言うと、背後にせまったモンスターに、たった一人で立ち向かった。
(これは・・・・・)
アンナが手の中を見ると、そこに、ひとつぶのミラクルグミがあった。
(・・・・・クラトス!)
アンナの胸に、熱いものがこみあげる。
それは、数日前に、アンナがクラトスにあげたはずのグミにちがいなかった。二人とも回復の魔法が使えるので、ふだん、グミを買うことはないのだ。赤ちゃんのために買った、このグミをのぞいて・・・・・
(もう、とっくに食べたと思っていたのに・・・・・)
(クラトス・・・・・・・・・・ありがとう!)
アンナは、あふれるなみだをこらえて、グミを半分かみちぎった。
「まだまだ、これからよ!」
よろめきながら立ち上がったアンナは、急いでクラトスの姿をさがした。
クラトスは、残った一匹のモンスターと戦っていた。
しかし、アンナの目の前で、クラトスの体が大きくかしぐ。そのまま、クラトスは地面にくずれ落ちた。
「いやあああっ!!!クラトス!」
かけよったアンナは、その場にひざをついて、急いで顔をのぞきこんだ。クラトスは苦しげにまゆをよせ、かすかに見開かれた瞳が、よろよろと宙をさまよう。
「ア・・・・・ンナ・・・・・」
「クラトス!わたしは、ここにいるわ!」
アンナを見たクラトスが、かすかに ほほをゆるめた。
「・・・・・ぶじ・・・・・か」
「うん!」
ぼろぼろとなみだをこぼしながらうなづくと、クラトスは、満足したようにつぶやいた。
「そう・・・・・か・・・・・」
かすかに言って、クラトスの頭から、がくりと力がぬける。
「クラトス!」
このような時だというのに、アンナの頭の中は、自分でもおどろくほど静かだった。
辺りからすべての音が消えて、周りの景色も見えない。目の前のクラトスを見ているはずなのに、背中に飛びかかってくるモンスターの様子が、コマ送りのように、ゆっくりと、鮮明に見える。
迷う時間はなかった。
クラトスの剣を取ったアンナは、ふりむきざまに、全身の力をこめて、うでをつきだした。
まさに、アンナにおおいかぶさろうとしていたモンスターの心臓に、剣が、ふかぶかとつきささる。
アンナは、剣を引こうとせず、さらに、おした。
「ギャアアアアア〜ッ!」
絶命したモンスターが、あおむけにたおれた。
その様子をぼんやりと見ていたアンナは、はっとわれにかえると、急いでクラトスにかけよった。
「クラトス!大丈夫?」
クラトスには まだ息があったが、全身傷だらけで、せいかんな顔からは、血の気が失せていた。
「どうしちゃったの?ねえ!」
両手でクラトスの手を取り、しっかりとにぎりしめる。
「・・・・・・・・・・!!!」
次の瞬間、アンナは息をのんだ。
アンナは、一体、何が起こったのか、最初は理解できなかった。しかし、そこにあるはずの感触がない。それだけは確かだった。
(・・・・・・・・・・うそ)
目の前が真っ暗になって、全身から血の気が引いていく。
「うそ・・・・・うそでしょ? どうして・・・・・!」
アンナは つかんだ手をのぞきこむと、必死になって、そこに光っているはずのエクスフィアをさがした。
(・・・・・ない・・・・・・・・・・エクスフィアが・・・・・ない!!!)
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アンナと父様-長いお話『人を愛するということ』 |