18、エピローグ
アンナは、宿屋の一室でロイドの寝顔をじっと見つめていた。すっかり大きくなった息子だが、あどけない寝顔は、おさないころと変わらない。
ロイドがすっかり寝入ったのを確かめると、アンナは、となりのベットに目をやった。
いつからそうしていたのか、そこには、ベッドにこしかけて、母と子を見つめる父親がいた。
その、深くやさしい瞳も、昔と少しも変わらない。
アンナは、にっこりとほほ笑んだ。
「クラトス・・・・・ありがとう」
「なんだ?」
「フィギュア・・・・・あなたが作ってくれたんでしょ?まるで、生きてた時みたいにぴったりだわ」
そう言って、アンナは夫のわきに座ると、少し彼をとがめるように言った。
「・・・・・だけど、前よりセクシ〜な体になってるのはどうして?まさか、あなたのシュミなんじゃないでしょうね。サイズは知ってるでしょう?」
「・・・・・すまん」
犯人はゼロスにちがいなかったが、つい、口ぐせであやまってしまう。
くすり。
アンナが笑った。
「クラトス」
「・・・・・ん?」
「・・・・・世界を平和に導くって約束を、守ってくれてありがとう」
そう言って、アンナは、クラトスのかたに そっと全身をあずける。
「・・・・・すまない・・・・・おそくなって・・・・・」
クラトスは、身動きひとつしないで、ただ、ぼそりとつぶやいた。
「ううん、いいの。ミトスくんは、あなたの息子も同然だから・・・・・つらいと思うけど・・・・・」
「・・・・・あれのことは、私のまいた種だ。自分の手でかりとらなければ・・・・・な」
クラトスの言葉を聞いたアンナが、目をまるくして顔を上げた。
「・・・・・変わったわね」
「なにがだ?」
「・・・・・あなたよ」
「私が・・・・・?」
「ええ」
かつてのクラトスは、自分を責めることで、現実からにげようとしてばかりいた。
相手の気持ちをはかりすぎて身動きできなくなり、他人の苦しみが自分の苦しみになってしまう。それは、やさしさといえなくはなかったが・・・・・
本当の意味で、彼は、やさしくなった。
アンナは、そう思った。
「・・・・・クラトス」
アンナは、もう一度、夫の名前をよんだ。
クラトスは、静かにアンナを見る。
アンナは、心からこみあげる喜びを満面にたたえて言った。
「あと少し・・・・・がんばろうね」
「・・・・・むろんだ」
息子に、おくれをとるわけにはいかぬしな・・・・・
そう言って、クラトスは、静かにほほ笑んだ。
完
20050130
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アンナと父様-長いお話『ペリット物語』 |