ぺリット物語

12、引越し


「・・・・・アンナ・・・・・か?」

「他の人に見える?」

「・・・・・いや・・・・・すまない」

クラトスには、その一言で十分だった。しかし、アンナはすでにこの世にいないはずだ。では、この茶番を仕かけたのは、一体だれなのか・・・・・

クラトスは、一番あやしい神子二人に目をやった。

「神子たちよ。・・・・・これは何のつもりだ?幻影を見せて、私を満足させようというのか?」

「オレさま、そんな力ね〜っつ〜の!」

「私も、何もしてません!」

二人は、大きく首を横にふった。

「・・・・・では、ロイド。おまえか?」

「なんだよ。オレをうたがうのか?」

ロイドが むっとした顔をする。

それを見たアンナが、さも楽しそうに笑って言った。なつかしい、いたずらっぽい顔をして・・・・・

「しばらく会わないうちに、一段とうたぐり深くなったみたいね。愛しい妻が本物かどうかも分からないなんて・・・・・クラトスのはずかしい話、みんなにバラしちゃおうかな〜♪」

「な、なにっ?」

あせるクラトスをしり目に、周りのメンバーたちが にぎやかにさわぎ始める。

「あ!聞きたいで〜す♪」

「オレも、オレも!」

ロイドとコレットが、手をあげてアンナにアピールする。

プレセアが、ぽつりとつぶやいた。

「・・・・・興味はあります」

「そういえば、クラトスの弱みをにぎってるメンバーっていないよねぇ。そう考えたら、教えてもらっても不公平じゃない気がするね!」

しいなは、うんうんとうなづきながら言った。

アンナは、片手で口をおおって、笑いをこらえながら言った。

「あのね〜。クラトスったら、ロイドが生まれるまで、赤ちゃんは、キャベツ畑で出来ると思ってたのよ〜♪」

「ええぇええ〜っ!!???」

言葉を失うメンバーのわきで、ロイドとコレットが不思議そうに顔を見合わせる。

「・・・・・ちがうのか?」

「ちがうのかな?」

「あとは、ロイドが生まれた時にね〜」

「わ、分かった!」

まだ続けようとするアンナを、クラトスがあわてて止めた。冗談(じょうだん)ばかり言って相手を楽しませようとする彼女の話し方は、昔と少しも変わっていなかった。

「おまえは、確かにアンナだ!・・・・・だから、だまってくれ・・・・・」

「しかし・・・・・」

そう言って、クラトスは、あらためてアンナを見た。

「なぜだ・・・・・?おまえは・・・・・一体・・・・・」

「・・・・・ごめんね。今まで、だまってて・・・・・」

アンナは、そっと手をのばしてクラトスのほほにふれた。細い指はクラトスのはだを通りぬけ、実際にふれることは出来なかったが、クラトスは、確かに彼女のぬくもりを感じた。

「ずっと・・・・・見ていたわ。ロイドと、あなたを・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

二人の目が合う。アンナは、困ったような顔をしてほほえんだ。

「顔を見せたら、つらい思いをさせると思って・・・・・あなたにも、ロイドにも・・・・・」

「もうよい・・・・・」

クラトスはアンナの言葉をさえぎると、ふれることの出来ない彼女の手を取り、その甲にやさしく口づけた。

「うわ〜・・・・・って・・・・・ね、ねえさん?」

リフィルが、ジーニアスの目元を両手でかくす。

アンナは、クラトスの胸にそっと体をあずけた。

それきり、二人は言葉を失ってしまった。交わす言葉は必要ないのかもれしれない。その場にいるだれもがそう思った。

「クラトスさん・・・・・」

コレットが、おずおずと声をかける。

「・・・・・アンナさんは、ずっとエクスフィアに寄生して今まで生きてきたそうです。だけど、今日からは、クラトスさんが協力して出来たフィギュアにお引っこしされるそうです」

「フィギュアに・・・・・?」

「うん♪」

アンナは、にっこりと笑って言った。

「だって、エクスフィアの中にずっといたら、命をとりこまれて自分が消えちゃうんだって。フィギュアは、わたしの体にぴったり合うし・・・・・ダメ?」

「いや・・・・・」

突然の話にとまどいをかくせないクラトスが周りに目をやると、みんな瞳をかがやかせて満足そうに笑っていた。

「オレ、さんせい!!!」

「私もです〜♪」

ロイドとコレットが言い、他のメンバーも大きくうなづく。

リフィルは、またもや遺跡モードでつぶやいた。

「ふむ・・・・・ふつうならエクスフィアに寄生され、取りこまれてしまうというのに、彼女は、反対に寄生した上、アストラル体としての形態も まったくそこねていない・・・・・なぜだ?」

それを聞いたアンナが、首をかしげて答えた。

「え?そうなの?・・・・・エクスフィアってね、話し相手にはならないんだけど、生きているのよ。ちゃんと命があるの。だからお願いしたの。ジャマはしないから、ちょこっとだけ、いそうろうさせてほしいって。・・・・・だからかな?」

「なるほど。友好的に接することがエクスフィア寄生への重要なポイントなのだな。・・・・・たしかに、われわれの体にも外部から侵入した異物を排除する免疫機能が備わっているからな。これは、実に興味深い研究対象だ!」

「いたっ!ねえさん、やめてよ〜!」

こうふんしたリフィルに思いきり強くだきしめられたジーニアスが、宙にういた足をじたばたさせてもがいた。

それを見たロイドが、ぼそりとつぶやいた。

「先生・・・・・母さんは、いせきじゃねーぞ・・・・・」

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