ぺリット物語

3、ストップ・ロイドくん


(あれは・・・・・一体、誰に似たというのだ・・・・・)

クラトスの亡き妻、つまり、ロイドの母アンナは、何かに夢中になって 「こる」 ということがなかった。むしろ、はっきりとあきっぽかったし、おおらかというか、 大ざっぱな性格だったので、細かい家事は全部クラトスがやっていたぐらいだ。

(・・・・・となると、私・・・・・か?・・・・・・・・・・ああ・・・・・そんなところは、 似なくても良かったのに・・・・・)

何事も、一度手をつけると極めるまでやめられない自分の性格に思い当たるクラトスは、 ちくりと痛む胸をおさえながら考えていた。

よろよろと歩いていると、ちょうど夕食の用意をしているリーガルが見えた。 リーガルは、パーティで一番といえる良識の持ち主で、趣味(しゅみ)も特技も料理という、 繊細な一面を持つ男だ。リーガルもまた、ロイドから父のようにしたわれており、 相談があると、ロイドは、クラトスではなく、もっぱらリーガルへ持ちかけているようだった。

リーガル本人は、決して自分の意見をおしつけることはなく、 はっきりとアドバイスをくれるわけでもないのだが、じっくりと最後まで話を聞き、 それを あるがままに受け入れてくれるので、一時的に心が迷った時には 最高の相談相手になるのだろう。

自分にも、この男ほどの広い心があれば ロイドを理解できるのだろうか?  クラトスは自分にたずねてみる。

(アンナよ・・・・・お前は、なんと言うだろうな)

知らず知らず、他人に救いを求めていることに気づいたクラトスは、 自分をあざけるように笑った。

「フ・・・・・バカげたことだ」

弱い心をおおいかくすようにマントをひるがえすと、 クラトスは、リーガルに歩み寄って行った。

リーガルは、原っぱに石を組んで作った台所の前に立ち、 火にかけたなべを愛しげに見つめていた。

「クラトスどの・・・・・どうされたのだ?」

クラトスが声をかけるよりも先に、リーガルが気づかうように言った。 クラトスの気持ちが顔に出ているのか、それとも、こうなることを予測していたのか・・・・・。

どちらでもよい。そう思ったクラトスは、小さなため息をついて言った。

「すまないが、ロイドに言ってやってくれないか。人形集めは、 世界が平和になれば好きなだけ出来ると・・・・・」

ぴくり。

リーガルの顔に、緊張(きんちょう)が走った。

「・・・・・?」

見ると、リーガルは、その話にはふれたくないと言わんばかりにクラトスに背を向けた。 それは、およそいつもの彼らしくない態度だった。

「・・・・・すまないが・・・・・それは出来ない」

大きな背中からもれたのは、意外な一言だった。

おかしい。リーガルの言うセリフとは思えない。

クラトスは、リーガルを見つめた。

リーガルは、ますます居心地が悪い様子で、必死で何かにたえているように見えた。

クラトスの頭に、ひとつの答えがうかんだ。

「買収された・・・・・か?」

ぽつり、と問うと、リーガルは、うっと言葉につまった。

(図星・・・・・だな)

口封じのためにロイドが何か作戦を練っているとは思ったが、まさか、 ここまで分かりやすくて、ずるい方法を使うとは思わなかった。

リーガルは苦しそうにまゆを寄せると、やれやれと頭をふって深いため息をついた。

「すまん・・・・・アリシアのフィギュアを受け取ってしまったのだ・・・・・」



「なんですって?子供たちに、フィギュア作成をやめるように言え・・・・・ですって?」

本からはなれたリフィルの瞳は、おそろしいほど ぎらぎらとあやしい光に満ちていた。 その眼光をまともに受けたクラトスは、無意識のうちに後ずさった。 彼女の間合いから外れるためだ。

これは、ふつうの状態ではない。

クラトスは、いつも冷静で落ち着いていて、パーティのブレインともいえるこの女性が、 こうして別人になってしまう場面に何度か出くわしたことがあった。

しかし・・・・・・・・・・

(遺跡(いせき)がないのに・・・・・なぜだ?)

そう。リフィルは遺跡が大好きで、遺跡に行くと決まって、 このようにハイを通りこしてあぶない人物になってしまうのだった。 ロイドたちはこの状態を 『いせきモード』 と呼んでおそれていた。

あまりにリフィルの様子がおかしいので、失礼だとは思いながら彼女の全身に 目をやったクラトスは、手にしっかりとにぎられている小さな置き物に目をとめた。 どこかで見たことのある・・・・・それは・・・・・・・・・

各地の遺跡で何度も見かけた、石版だった。

どこでそれを手に入れたか、聞くまでもなかった。それほど器用に細工が出来る人物は、 そうそういないだろう。

(息子よ・・・・・お前は、そこまでするのか・・・・・)

ロイドが一番素直に言うことを聞くにちがいなかったきびしい女教師は、すでにロイドの味方にまわっていることをクラトスはさとった。

案の定、その場に立ちつくしているクラトスに向かって、リフィルが勢いよくまくしたてる。

「クラトス・・・・・あなた、まったく分かっていないのね。あなたが本気を出せば、古代大戦以降の歴史上における重要な人物図鑑を作ることも可能なのよ?それを・・・・・」

「すまない・・・・・用事を思い出したので、失礼する・・・・・・・・」

「あっ、ちょっと、まちなさい! 話は、まだ終わってなくてよ!」

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