ぺリット物語

14、永久の誓い


「え〜・・・・・じゃ、仕切り直しといくぜえ!」

にやりと笑ったゼロスは、ごほんとせきばらいすると、目の前に立つ新郎新婦に向かって おごそかに言った。

「クラトス・アウリオン。あんたは、これまでも、これからも、死んでからも、アンナ・アーヴィングを愛し、守りぬくと、ちかっとく?」

「・・・・・・・・・・」

しかし、クラトスは、その場に立ちつくしたまま、口を開こうとしなかった。

「・・・・・?」

みんなの視線が、クラトスの背中に集まる。

「極度の緊張と、強度のはじらいによる全身の硬直(こうちょく)。声を出すのはおろか、口も開かないようです」

じっとクラトスを見ていたプレセアが、小さな声でたんたんと説明する。

「無理もなかろう。ふつうは、挙式へ向けて、長い時間をかけて心の準備をするものだからな」

リーガルが、クラトスをかばうようにつぶやいた。

「父さん、がんばれ!」

ロイドが力をこめて応えんする。しかし、クラトスは、それでも動かない。

「オ〜ケ〜、オ〜ケ〜。無言実行ってわけね」

ゼロスは鼻で笑って天井をあおぐと、今度は、アンナに向かって言った。

「じゃあ、アンナ・アーヴィング。あなたは、この先、何があってもクラトス・アウリオンを愛し、守り、彼についていくと、ちかっちゃう?」

「そうねえ〜。どうしようかしら・・・・・」

「なにっ!?」

アンナの返事を耳にしたクラトスが、血相を変えてとなりを見る。

アンナは、片手をほほにあてて、はずかしそうにはにかんだ。

「だって・・・・・あなた以外にも、いい男がいっぱいいるんですもの。ゼロスくんはチョーかわいいし、リーガルさんもステキ・・・・・わたし、早まったかも・・・・・」

「おお〜!ウルトラ美人妻とのキケンな恋かぁ〜。オレさま、そそられちゃうなあ〜!」

ゼロスは、さもうれしそうに笑うと、両手を広げてアンナに近づこうとした。が、すばやく向けられたクラトスの剣が行く手をはばむ。

クラトスは、殺気に近いオーラを放ってゼロスをにらみつけた。

「神子よ。気安く近づかないでもらおうか」

「・・・・・自ら所有していると考える物に対する執着心(しゅうちゃくしん)を確認。対象が人間なので、これは、やきもちですね」

プレセアが、ぽそりとつぶやいた。

ゼロスは、あわてて両手を上にのばした。

「ちょ、タンマ、タンマ!そういうの、逆ギレっていうんじゃね〜か?あんたがちゃんと愛をちかえば、すべてまるくおさまる話しでしょ〜が!」

「・・・・・・・・・・・・」

「クラトス?」

アンナが心配そうにクラトスの顔をのぞきこむ。その顔はまったく無表情に見えたが、アンナは、彼が相当のストレスにおしつぶされそうになっていることに気がついて、しゅんと下を向いた。

(それは・・・・・そうよね・・・・・)

自分のフィギュアを作ってもらえたことがうれしくてついつい姿を見せてしまったが、ある日突然、死んだはずの妻が現れて、今さら結婚してくれと言うのだから、おどろくなという方が無理だろう。

「・・・・・ごめんね・・・・・クラトス」

「・・・・・?」

ぴくり。クラトスの指が動く。

アンナは、できるだけ明るい笑顔を作って言った。

「・・・・・わたし、ドレスを着て、こうして、あなたのとなりに立てただけで満足だから・・・・・あの・・・・・」

もう、姿を消すね。

アンナがそう言おうとした時、ふいにクラトスの顔がゆがんだ。

「まてっ!」

「・・・・・!」

アンナは、生きていたら心臓が止まったかと思うほど、おどろいて立ちすくんだ。ふだん決して感情を表に出さないクラトスが必死にさけぶ姿を、以前にも一度だけ見たことがあった。自分が命を失った時に・・・・・

「・・・・・待ってくれ・・・・・」

クラトスは、心の底から願うようにつぶやくと、アンナに向かって、よろよろとうでをのばした。

「行くな・・・・・」

(・・・・・たのむから、行かないでくれ。もう・・・・・二度と・・・・・)

クラトスは、さわると消えてしまいそうなほど はかなく大切な物にふれるようにアンナのほほをなでる。その指は、かすかにふるえていた。

「アンナ・・・・・すまない」

のどから声をふりしぼってやっとそう言うと、クラトスは、ふるえる胸いっぱいにゆっくり息をすいこんで、まっすぐアンナの瞳を見た。

「・・・・・わ、私は・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

まわりのメンバーが息をのむ。

クラトスは、自分を見つめる妻の瞳から目をそらし、なんとか言葉をつむごうとする。

「あ、アンナ・・・・・あなたを・・・・・」

「あ・・・・・愛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・ぷっ!」

ふいに、ふきだしたのは、アンナだった。

「アンナ・・・・・?」

「・・・・・バカ」

アンナは、まゆをよせるクラトスを安心させるように、やさしく体をだきしめた。

「クラトスったら、どれだけ心配をかけたか分かってる?・・・・・親子で戦ったり、息子に殺されようとしたり、封印をとくために命を投げだしたり・・・・・わたし、何度も死ぬ思いを味わったわ・・・・・って、もう死んでるけど」

「・・・・・すまない」

「これから、一生かけて、穴うめしてくれるって約束してくれたら、ゆるしてあげようかな」

アンナは、クラトスの顔を見上げて笑った。いつものように、いたずらっぽく。

「・・・・・フ」

クラトスも、つられてほほをゆるめる。

アンナの笑顔が、クラトスの心の中にあるわだかまりを こなごなに打ちくだいて消し去ってゆく。

一体、自分は何にしばられ、なぜ、これほどかたくなだったのだろう?クラトスは自問した。

(今、ここに彼女がいる。・・・・・それで十分ではないか)

クラトスは小さくため息をつくと、口のはしを上げて言った。

「・・・・・そうだな・・・・・分かった。今、ここにちかおう。これからは・・・・・二度とあなたを悲しませないことを。そして・・・・・永遠に・・・・・はなさないと・・・・・」

「・・・・・うん・・・・・ありがとう・・・・・」

アンナの瞳からあふれたなみだが、きらきらとかがやいた。

「あのクラトスを自由にあやつってる・・・・・母さん、すげえ!」

目をまるくして感動しているロイドにあきれたリフィルが言う。

「尊敬の基準をまちがっていてよ、ロイド」

なごやかな様子を見ていたゼロスが、にやりと口のはしを上げて、大げさに言った。

「よっしゃあ!じゃあ、ちかいのキスを、ガツ〜ンといっとこうや!」

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