ぺリット物語

4、ロイドの気持ち


辺りはすっかり暗くなり、夕食を食べ終えたみんなは、 たき火を囲んでそれぞれ自由に休んでいた。

クラトスは、今日一日がんばったノイシュを連れて浜辺を散歩していた。

「・・・・・まったく、あれは一体何を考えているのだ。ノイシュ・・・・・・・・・・・・・・・すまないな」

「クゥ〜ン・・・・・」

クラトスは、荷物をおろしてすっかり体が軽くなったノイシュの背中をなでてつぶやいた。

「困ったやつだ・・・・・」

ドーン・・・・・ドーンと、まっ暗い海から波がおしよせる。大きく、小さくひびく音も、 潮のにおいのするしめった風も、クラトスが子供のころとまったく変わっていなかった。

こうしていると、自分が4千年以上も生きているというのが、まるでうそのように思える。

初めて海を見たのはいつだったろう。

遠い遠い記憶を探そうとした時、ふいに人の気配がして、クラトスは静かにふり向いた。

「・・・・・神子」

「こんばんは・・・・・」

そこにいたのはコレットだった。何やら思いつめた顔をして、 胸元にしっかりと何かをにぎりしめている。クラトスが近づいてみると、 それは、昼間 手に入れたペリットだった。

「・・・・・どうしたのだ。こんなおそくに。眠れないのか?」

「・・・・・いえ」

コレットは首を横にふると、顔を赤らめながら、ぽつり、ぽつりと言った。

「あの・・・・・ロイドを・・・・・おこらないであげて下さい。ロイドは・・・・・・・・・・あの・・・・・」

そこまで言うと、コレットは、大きく息をすいこんで、一気に言った。

「お母さまのフィギュアが、ほしいだけなんです!」

「・・・・・アンナ・・・・・の?」

「はいっ!」

クラトスは、コレットの言葉を理解するまでにずいぶん時間がかかったような気がした。 あまりにとっぴょうしもない話だったからだが、息子の気持ちを分かってやれなかった 自分にもショックを受けていた。

無言でその場にたたずむクラトスを前に、コレットは、手に持ったペリットを見つめ、 手の上で転がしながら続けた。

「あの・・・・・でも、ロイドのお母さまって、クラトスさんからもらったペンダント しかなくて・・・・・それで・・・・・失敗ばっかりで・・・・・」

ああ、と、クラトスは、かわいたのどをならした。コレットの言いたいことが 、ようやく理解できたのだ。

コレットは、クラトスの思った通り、深々と頭を下げて言った。

「クラトスさんに記憶を入れてもらえば、きっと、絶対、お母さまが出来ると思うんです。 どうか、お願いしますっっ!!」

クラトスは、おずおずと差し出されたペリットをしばらくの間じっと見つめていたが、 ふいに、ほほをゆるめて口のはしを上げた。

「ふ・・・・・まだ、子供なのだな・・・・・」

コレットが不安そうな顔をしたので、クラトスは、ペリットを受け取ることで返事した。

「クラトスさん!」

コレットがうれしそうに笑う。

クラトスは、息子に一度も母の話をしてやっていない自分をどこかで責めながら、 ペリットを持つ手に力をこめた。

「アンナの人形が出来れば、あれもバカなマネはやめるだろう・・・・・神子よ。今回限りだぞ」

息子に、母の姿を見せてやりたい。

心からそう思うのに、口からは、別の言葉がもれていた。

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