ぺリット物語

9、アンナ・アーヴィング


「う〜ん。思いきって、新しいファッションはどうかなあ?」

「そうだねえ。かわいい感じだけど美人だから、何を着ても似合うんじゃないかい?」

コレットとしいなは、アンナに着せる服のデザインを考えていた。一応クラトスにもたずねたのだが、答えは「なんでもいい」だったのだ。

「なんでもいいということは、クラトスさんが気に入ったものであれば、どのようなデザインでも かまわないという意味ですね」

プレセアが冷静に言った。

「そうなんだよ〜。そこが問題さ」

しいなは、やれやれと ため息をついた。

「クラトスのことだからね。『なんでもいい』って、本気で思ってるわけないサ!」

「そうですね。それならば、水着でも良いはずですから・・・・・」

プレセアも、困った顔をして下を向く。

女性たちがアイデアにつまったちょうどその時、元気に部屋をノックしてロイドが顔をのぞかせた。

「よぉ!どうだ?母さんの服できた?」

「そんなに早く出来るわけないだろ?」

しいなが あきれて言った。

「じゃあ、ちょうど良かったよ。ゼロスに話したら、テセアラの有名デザイナーにたのんでくれるって言うんだ!」

「へえ!」

部屋の中が一気にわきかえる。

「は〜い。みんなのゼロスくん、登場〜♪」

ロイドの背中をどんとおして、ゼロスが部屋に入ってきた。

「ゼロスくん。お手がらです」

「ありがと〜♪プレセアちゃ〜ん♪」

自信に満ちた笑顔をふりまいて、ゼロスは言った。

「オレさまからデザイナーにたのむのは簡単だけどよ、ある程度、どんな服っていうイメージは決めておいた方がいいと思うぜ〜。たとえば、礼服とかな」

「礼服かあ〜。いいんじゃねえか?」

「そだね〜♪」

ロイドとコレットが顔を見合わせて笑う。

プレセアが、アンナのフィギュアをじっと見つめながらつぶやいた。

「本人にたずねることが出来れば、一番いいと思いますが・・・・・」

「ホンニンって・・・・・だれだ?」

「アンナさんに・・・・・ってことだよ!」

ボケるロイドに、しいながつっこむ。

ロイドは、ああ、と、つぶやいて目をかがやかせた。

「そっか。・・・・・母さんはもういないけど・・・・・エクスフィアが、何か教えてくれるかもな」

そう言って、左手のエクスフィアに耳をつけると、ロイドは、そっとたずねてみた。

「・・・・・なあ、母さんは、どんな服が好きだったんだ?」

・・・・・・・・・・

まわりにいるメンバーが、じっと様子を見守る。

「・・・・・?」

ふいに、ロイドは、エクスフィアが急に熱くなったのを感じて、あわてて耳をはなした。

次の瞬間、部屋中にまぶしい光がさしこんだ。いや、ちがう。光は、部屋の中から放たれたのだ。

「な、なんだ!?」

ロイドは、おどろいて左うでを見た。まぶしくかがやいているのは、彼のエクスフィアだ!

光は、目を開けていられないほど強くかがやいてロイドたちを照らしたが、体に感じるのは、あたたかさと、やさしさだった。

光の中でかすかに目を開けたしいなが、おどろいて声をあげた。

「・・・・・ああっ・・・・・!?」

「どうした、しいな・・・・・?」

ロイドたちも、必死に目を開けてみる。

しいなが見ていたのは、部屋の中央、アンナのフィギュアの置いてある辺りだった。

つられて目をやったメンバーは、そこに、一人の女性が立っているのを見た。茶色の長い髪をこしまでのばし、かすかに首をかしげてみんなを見おろしている。

その顔は・・・・・一目みてロイドにそっくりだった。

「・・・・・か、母さんっ!?」

「・・・・・ロイド・・・・・ひさしぶりね」

女性がにっこりと笑う。フィギュアとまったく同じ顔をしている彼女は、まちがいなく、アンナ・アーヴィングだった。

「母さん・・・・・生きてたのか・・・・・?」

ロイドが手をのばしてふれようとしたが、その手は、アンナの体を通りぬけてしまった。

「・・・・・ごめんね。ロイド・・・・・・・・・」

アンナは、瞳にいっぱいのなみだをうかべて言う。

「エクスフィアに寄生されているのですか?アリシアのように・・・・・」

プレセアが、表情をこわばらせてたずねた。

アンナは小首をかしげると、うでを組んで宙を見上げた。

「さあ・・・・・それはよく分からないけど・・・・・殺してもらった時にね、どうしても、ロイドとあの人が気になって死ねなくて・・・・・どうせなら、エクスフィアに乗りうつってみようと思って・・・・・それからね、ず〜っと、そこに住みついていたの」

そう言って、アンナは、ロイドの左手を指さした。

「・・・・・はぁ?」

部屋中にいるメンバーが絶句する。

「だけど、エクスフィアの中って、せまいしつまらないし、本当、死んじゃうかと思ったわ!・・・・・あ、もう死んでたっけ」

明るく言うと、アンナは一人で楽しそうに笑った。

にやっと笑ったゼロスが、ロイドのうでをつっついた。

「・・・・・お前の母上、面白いじゃねぇか」

「か、母さん・・・・・」

ロイドは、自分の想像していた母親とちがうアンナのノリの良さにとまどっているようだ。

それは、他のメンバーも同じだった。ただ、ロイドをよく知っているみんなは、そのノリが彼と同じだとすぐに気がついてなっとくした。

(そうか・・・・・ロイドは、お母さん似だったんだな)

そう思ったみんなの心に、ふと、新しい疑問がうかぶ。

みんなを代表するかのように、プレセアがつぶやいた。

「クラトスさんは、こういう方が好みだったのですね。・・・・・意外です」

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