2、困惑のクラトス
「・・・・・それで?フィギュアを作りたいからイセリアへ行くと。
・・・・・そう、言うのだな?」
「ああ!」
「・・・・・・・・・・・・」
クラトスは、期待に胸をふくらませてじっと自分を見つめている ロイドから視線をそらすと、ひそかに深いため息をついた。
まるで、太陽の光を全て吸いこんだように暗いこん色のマントの下から うでをのばし、顔半分がかくれている前髪をかきあげると、赤い髪の下から整った顔が見えた。その顔は、はっきりとあきれている。
クラトスは しばらくじっとだまっていたが、やがて、小さな息をはくと、 おさない子供に言いきかせるように静かに言った。
「・・・・・昨日も、行っただろう」
「ああ!」
ロイドは、元気いっぱい、力をこめて返事した。きらきらとかがやく瞳には 一点のくもりもなく、熱い何かがこもった視線が、まっすぐクラトスに注がれている。
フィギュアというのは、ドワーフ族の持つ特別な技でしか作れない人形だ。 作る人の記憶をペリットという不思議な石にこめれば、本当にいる人とまったく同じ ・・・・・といっても、小さいが、生き写しの人形ができるのだ。
「・・・・・おとといも・・・・・行ったであろう?」
「ああ!」
クラトスはダメもとで言ってみたが、ロイドは、まったく気にする様子がない。
一体、何があったのかクラトスは知らないが、ロイドは、ここ一週間ほど、 ペリットを集めてはフィギュアを作るために毎日イセリアへ通っていた。
体のわきにのびたロイドの手が、かたくにぎられている。クラトスはそこに、 今は亡き妻を見た気がして、思わず口のはしを上げた。
(そういえば、アンナも・・・・・いつもこうだったな)
目の前でじっとクラトスの返事を待つロイドは、クラトスの実の息子でもあった。 ロイドが3才の時に事情があってはなればなれになったが、 14年の時が過ぎて再会し、今、こうして、共に旅を続けているのだ。
ゆがんた世界を元にもどし、平和をもらたすために・・・・・
まだ年わかい息子が何かに夢中になる気持ちは痛いほど理解できたが、しかし・・・・・
クラトスは、心を鬼にして、ロイドのかたに手を置いた。
「・・・・・ロイド。今、何をすべきか、おまえは分かっているのか?」
そこまで言って、ふいに目の前に飛びこんできた光景を目にしたクラトスは、 ロイドの背後に目をやったまま絶句した。
「キュ〜(クラトス〜)・・・・・」
そこに、クラトスの古くからの友、ノイシュがいた。 ノイシュは、プロトゾーンという世界でもめずらしい生き物だ。 見た目は大きなけもので、とてもそうとは思えないが、 ロイドはノイシュを「犬」だと言いはっていた。
いつもはすらりとのびた長い手足をいっぱいにのばして 大地を自由に走りまわっているノイシュだが、今は、なぜか緊張(きんちょう)した様子で、 ゆっくり、ゆっくりと歩いている。
その原因は・・・・・
ノイシュの背中に乗せられた たくさんの荷物だった。 ひとつひとつは両手でかかえられるほどの大きさの四角い箱だが、 それが、いくつも重ねてあるのだ。
「ロイド・・・・・あれはなんだ?」
「あ?ああ・・・・・あれ?」
父親の声に怒りがふくまれているのを感じて、ロイドは、ごまかすように照れ笑いした。
「フィギュアだよ。ちょっとまって。いま、見せてやるよ」
ノイシュの背中から荷物をひとつおろして中身を開けると、 中からガラスケースが出てきた。ケースの中は3段に分けてあり、 それぞれの段に、小さな人形がびっしりとならべてあった。
「こんなものを作るために・・・・・おまえは・・・・・」
クラトスはできるだけ感情のこもらない声で言ったが、 心の中は情けない気持ちでいっぱいだった。息子に対して。 そして、息子を理解できない自分に対して。
と、つい、ぼうっとしてしまったのか、クラトスは思わず手をすべらせてしまい、 ケースがガタリと大きな音をたてた。
「す、すまん・・・・・」
ケースが落ちる直前で受け止めたのだが、それを見たロイドが目をつりあげてどなった。
「なにすんだよ!フィギュアがたおれただろっ!もし、 こわしてみろ。たとえアンタでも、絶対にゆるさないからな!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
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アンナと父様-長いお話『ペリット物語』 |