ぺリット物語

10、フラノールにて


クラトスは、冷たくふきつける風の中を一人で飛んでいた。レアバードではなく、自らの羽で、だ。

(まったく・・・・・急にフラノールへ来いだの、称号を変えろだの、あれの考えることは、まったく理解できんな・・・・・)

やれやれとため息をついて、クラトスは自分の着ている服に目をやった。いつもとちがう、まっ白い礼服に。

(ジャッジメントの称号は、私に負けたことを思い出すからあれほど嫌がっていたというのにな。しかし・・・・・)

そう思いながら、何もかも息子の言いなりになっている自分のバカらしさにクラトスは苦笑した。

ロイドたちは、何やら他のメンバーと打ち合わせて、待ち合わせ場所であるフラノールの大聖堂へ先に行っているらしかった。一体、そこで何が行われるのか、クラトスにはまったく知らされていなかった。

(もしかすると、アンナの衣装のおひろめなのかもしれんな)

クラトスは何気なく考えた。しかし、それならば、なぜ、フラノールまで行く必要があるのか?

(では、まさか・・・・・これまでの私の所業を懺悔(ざんげ)しろとでも言うのだろうか・・・・・神と、アンナの前で・・・・・)

いや。そんなはずはない。ロイドたちがそのようなことを望むはずがない。クラトスは、けんめいに自分の考えを打ち消そうとした。

(やれやれ・・・・・鬼が出るか、蛇が出るか・・・・・アンナよ。私は、今ほどお前を尊敬したことはないぞ・・・・・)

アンナは、秘密ごとや、未知なる物が大好きだった。クラトスなら、すぐに後ろ向きに悪いことばかり考えてしまうのだが、アンナはおどろくほど前向きで、ないしょ事は、すべて楽しいことだと信じていた。

その明るさに、どれだけ支えられていたことか。

その軽やかさに、どれほど救われていたことか。

クラトスは、かつて失ったまま、いまだいえない心の傷をかくすように胸元に手をあてた。



「クラトス!まってたぜ!」

大聖堂のとびらを開けると、正装したメンバーがずらりとならんでクラトスをでむかえた。

「・・・・・一体、どういうことだ?」

「まあまあ。はるばる遠くから来たんだ。まずは、奥へ来て一服してちょうだいよ〜♪」

ゼロスが、やけに明るく言った。

「・・・・・・・・・・・」

アンナなら、喜んでさそいに乗るだろう。そう思ったクラトスは、周りのメンバーの顔がかがやいていることにようやく気がついた。みんなは、クラトスを喜ばせようとしているのだ。

クラトスは、ふっと鼻で笑うと、自ら奥へと進んだ。

「クラトスはここに立って、ちょっとまっててくれよ」

ロイドがクラトスを祭壇(さいだん)の前に立たせると、そこを動くなと念をおして、みんなといっしょにイスに座った。

「・・・・・?」

一体、何が始まるのだろう。クラトスが辺りに目をやると、祭壇の奥から、しずしずと二人の神子が歩いて来た。ゼロスとコレットだ。

ゼロスは祭壇の中央に立つと、コレットにウインクする。

ほほを赤くそめたコレットは、とても緊張(きんちょう)した様子で、布をかぶせた大きな四角いものを運んできた。

コレットが、クラトスの目の前に立った。

それを確かめたゼロスは、両手を高々とかかげると、大げさな口調で言った。

「クラトス・アウリオンよ。太古の昔に尊き所業をきざみし、いにしえの英雄よ。こよいは、そなたに、いま一度のきせきを与えようぞ」

「ぶーっ!!」

ロイドとしいなが、必死で笑いをこらえながらお互いのうでをつねりあう。

「・・・・・言葉づかいがおかしいな。文法を間違えているぞ」

と、リフィルは、なぜか遺跡モードでつぶやいた。

コレットがにっこりと笑って言った。

「・・・・・クラトスさん。この布を取ってみてください♪」

クラトスは、言われるがままに手をのばし、箱をおおっている布を外した。

「・・・・・これは・・・・・!」

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