ぺリット物語

11、婚礼の儀式


コレットの持っているガラスケースの中にあるものを見て、クラトスは息をのんだ。そこには、目を見はるばかりの美しく豪華(ごうか)なウエディングドレスを着たアンナがいた。

「どうですか?よく似合ってると思います〜♪」

「・・・・・ああ」

クラトスは、かわいたのどで そう言うのがやっとだった。

「このドレスは、ゼロスがメルトキオの有名なデザイナーさんにお願いして作ってもらったんですよ〜。ベビーピンクは、アンナさんが好きだって言うから・・・・・」

そこまで言って、コレットは あわてて口をとじた。

「アンナが・・・・・?」

クラトスが、いぶかしむようにコレットを見る。

ゼロスが横から助けるように言った。

「アンナさんが、ベビーピンクが好きだっていう夢を見たんだよ。なっ?コレットちゃん?」

「あ・・・・・は、はいっ。そうなんです!で、ここで結婚式をしたいって言うから・・・・・きゃっ!」

今度は、横から走ってきたしいながコレットの口をふさいだ。

「はははは。ま、まあ・・・・・そういうことサ!」

「結婚式を・・・・・ここで・・・・・?」

クラトスは、何がなにやら分からずにロイドを見た。

ロイドは思いきって立ち上がると、こぶしをにぎりしめて言った。

「あのさ。オレたち、父さんと母さんの結婚式をしたいんだ。あんたたち・・・・・結婚してないんだろう?」

「ロイドッ!!!」

バチン!と、はでな音をたてて、リフィルの平手が飛んだ。

「言葉に気をつけなさい!『結婚してない』ではなくて、『式をあげていない』でしょう?」

「・・・・・って〜なあ!どっちもいっしょだろ?」

「ちがいます!」

クラトスは、わけのわからないまま様子を見ていたが、しばらくして、あきれた顔でひたいに手をあてて言った

「つまり、おまえたちは・・・・・私と、この人形を結婚させようと・・・・・そういうのだな?」

「人形じゃありません!」

コレットが必死な顔をして言った。

しかし、クラトスは、くちびるをかみしめたまま無言で歩き出していた。出口へむかって。

「おい、まてよ、クラトス!」

ロイドがクラトスのうでをつかんだが、クラトスは、ふり返らずに言った。

「すまない・・・・・おまえたちの気持ちはありがたいが・・・・・アンナは・・・・・もう、いないのだ。今の私には・・・・・」

つらすぎる

それは、言葉にはならなかった。瞳に熱いものがこみあげてクラトスの視界をにじませる。

クラトスは、ようやくすべてを思い出していた。

雪の降る晩に、美しい教会で、二人だけの式をあげたいとアンナが言っていたことを。

そして、いつか必ずかなえてみせると自分が答えたことを。

しかし、それは、最後の最後までかなわぬ夢に終わった。

(・・・・・たとえ、今、それを人形にかなえたとしても、一体、そこになんの意味があるのだろうか?)

クラトスは、とびらに手をかけたまま、しかし、その場を動くことができなかった。

ぽたり・・・・・

ほほを伝う熱いしずくが床に落ちる。

「クラトス・・・・・」

ロイドが、とほうにくれた様子でつぶやいた。

さらさら・・・・・ 軽い布をひきずる音がして、だれかがロイドのとなりに立った。

ロイドは、ほっと安心した様子で、横にいるだれかに声をかけた。

「どうする?・・・・・父さん、ないちまったよ・・・・・」

くすり・・・・・

だれかが笑った。

「・・・・・!」

どきり。

クラトスの心臓が大きくはねた。

クラトスは、その笑い方を知っていた。

ずっとさがし求めていた、なつかしいそれは・・・・・

(・・・・・あなた・・・・・なの・・・・・か?)

確信があるのに、クラトスは、ふり向くことができなかった。

とびらにかけた手がふるえる。

クラトスは、のどから声をふりしぼってたずねた。

「・・・・・ロイド」

「あ?」

「おまえのとなりにいるのは・・・・・誰だ?」

「だれって・・・・・見れば分かるんじゃねえの?」

ロイドが あっさりと言った。

しかし、クラトスがふり返る前に、彼のよく知ったすずしげな声がひびいた。自分を見失うほどこがれつつ、もう二度と聞くことはかなわないとあきらめた明るい声が・・・・・

「ちょっと、ロイド。ムリムリ。この人は、一度こうなったら、ぜんっぜん動けなくなるのよ」

重く暗くしずんだクラトスの心に、一瞬にしてまぶしい光がさしこんだ。

「・・・・・!」

クラトスがふり向くと、そこには、美しく着かざったアンナがいた。

人形ではない。等身大のアンナが、じっとクラトスを見てほほえんでいた。   

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