愛を運ぶ風

15、


「・・・・・・・・来たか」

二人を見たユアンは、相変わらず居丈高に言ってうでを組んだ。それを見たアンナは、彼が背のびしているのだと気がついて吹き出してしまった。

「何がおかしい!」

案の定、顔を赤くしたユアンが大きな声をあげてアンナをにらみつける。

もしかすると、ユアンが横柄(おうへい)になってしまったのには、クラトスが一役かっているのではないか?英明で無愛想な男を相方に持てば、誰だって性格がゆがんでも仕方がない。そう考えると、アンナは、なんだかユアンが気の毒にも思えた。

「ユアンさん・・・・・愛を運ぶ風を持って来ました」

アンナは、ほほ笑みをたやさずにそう言って、静かに息をすいこむと、高らかに歌った。


「・・・・・・・・・・・・!?」

ユアンは、突然もたらされたアンナの答えに目を白黒させてたじろいでいたが、そばで瞳を閉じて黙するクラトスと、美しい歌声で歌い続けるアンナを見て、言葉を失ってしまった。

(・・・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・・バカな・・・・・!)

(これが、愛を運ぶ風だというのか・・・・・・・・・・・・・・)

(こんな・・・・・・こんなものが・・・・・・・・・!!)

ユアンは、心の中で必死に否定した。どうしても、決して、受け入れるわけにはいかなかった。


ユアン

ユアン・・・・・

私に何があっても悲しまないで

一緒に命を絶とうなんて

考えちゃだめよ

大丈夫

私には、愛を運ぶ風があるもの・・・・・・・・・


歌を愛し、歌いながら旅を続けてきたマーテル。苦しいときも、悲しいときも、歌は、常に彼女と共にあった。

(では、彼女は、一体、なんのために命を失ったというのだ・・・・・・・・!)

ユアンは、わきあがる怒りと悲しみで体をふるわせた。

「歌は、彼女の希望だったのだろう・・・・・・・・」

ぽつり。と、クラトスがつぶやいた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

どんなときも、人を憎もうとしなかったマーテル。

どんなときも、人を愛し続けようとしていたマーテル。

それは、努力ではなく、本当に、そう信じていたというのか・・・・・・・・・・・!

「・・・・・・・・・・ふ・・・・・ふははは・・・・・」

自嘲的(じちょうてき)な笑いが口からもれる。ユアンは、片手で顔をおおい、よろよろと後ずさると、手に取った小さな宝箱をふり上げて乱暴に投げつけた。

カシャン・・・・・・・

繊細な音をたててゆかにぶつかった箱から、クラトスのエクスフィアが転がり落ちる。

「・・・・・・・・・・・行け」

「・・・・・え?」

歌を止めたアンナが、首をかしげてユアンを見る。

ユアンは、うつむいたままさけんだ。

「その石を持って消えろ。今すぐにな!」

「ユアンさん・・・・・・・・・・・・?」

アンナは、その場を動かなかった。ユアンの悲しみが全身をつらぬいて、動くことが出来なかったのだ。

「・・・・・では、石は返してもらうぞ」

静かに言って、クラトスが石を拾い、自らの左手に置いた。

「クラトス!ちょっと、どうして?」

アンナは食い下がったが、クラトスは、アンナのかたに手を置くと、うれいをふくんだ眼差しでユアンを見て言った。

「おまえは目標を達したのだ。・・・・・行くぞ」

「そんな・・・・・だって、まだ・・・・・・・・きゃあっ!」

軽々とかつぎ上げられたアンナは、クラトスの背中をたたいて反抗した。

「クラトス!ひどいわ!ユアンさんの望みは、まだ、達成されてないじゃない!」

「そうだな・・・・・しかし、今のアレの希望は、一刻も早く、私達が消えることだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・ユアンさん・・・・・」

アンナが最後に見たのは、両手で顔をおおって、ゆかに座りこむユアンの姿だった。


「・・・・・クラトス・・・・・・・・あれで、本当に良かったのね?」

アンナは、とぼとぼと砂漠を歩きながらたずねた。まだ納得がいかないが、クラトスがそうだと言うのだ。自分も信じるしかあるまい。

クラトスは、エクスフィアが光る手でこしに下げた剣をなぞりながら、言葉をさがすように、ゆっくりと言った。

「・・・・・アレが何を考えていたかは知らんが、さがし物は見つかった。ユアンも、私も・・・・・な」

「・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・」

だけど。

「・・・・・・・・ユアンさんの夢、かなえてあげたいな・・・・・・・・」

アンナは、空を見上げてつぶやいた。

真の平和。それは、どこにあるのだろう?その答えは、どこにも見つからなかった。

いや・・・・・

見つからないのなら、さがせばいい。

そう思ったアンナは、新たな希望と少しの不安をかかえて、となりを見た。

「クラトス・・・・・これから、どこへ行くの?」

二人が住んでいた小屋は、焼きはらわれてしまったのだ。行くあてを失ったアンナだったが、クラトスと一緒なら、何もこわくはなかった。

きらきらと瞳をかがやかせて答えを待つアンナを横目で見て、クラトスが、やれやれとため息をついた。

「・・・・・・・・・・子供の遠足では、ないのだがな・・・・・」


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