14、
クラトスとアンナは、山を降りると、早速バートに事情をつげて小屋を出た。バートは別れをおしみ、今後、オサ山道を通るときには必ず顔を見せるようにと何度も念をおした。
「・・・・・バートさん、本当にいい人だったわね」
「ああ・・・・・」
「まるで、お父さんといるみたいで、とても楽しかったわ」
「そうだな・・・・・」
一人で話すアンナに、クラトスが淡々とあいづちを打つ。それは、いつもとまったく同じ光景だった。しかし、クラトスの背中をたどって旅していたこれまでとちがって、今のアンナは、ぴったりとクラトスに寄りそって歩いていた。
目の前に広がる景色は遠く、続く道は果てしない。
だが、すぐとなりに彼がいる。背中しか見ていなかったときとちがって、横にいれば、クラトスの息づかいが聞こえるし、どこを見ているのかも分かる。こうやってかたをならべているだけで、彼の心の動きも簡単に読めるのだ。
なぜ、もっと早くこうしなかったのだろう。アンナは、どこまでも身勝手だった過去の自分をはじた。
「クラトス、わたしね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・ん?」
沈黙(ちんもく)の続きを、クラトスがやさしくうながす。
アンナは、さくさくと音をたてる足元を見ながら言った。
「わたし、ずっと、あなたに甘えていたの。いつも、守られて、助けてもらうのが当たり前だって、そう思ってた。・・・・・でもね、それじゃダメだって思ったの。わたし・・・・・わたしも・・・・・これからは、あなたの力になりたい」
「・・・・・・・・フ」
「なによ。バカにして〜///」
「いや・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って、クラトスは、空に光る星を見た。
「・・・・・・・・・・おまえという存在が、力なのかもしれんな・・・・・」
「え?なんですって?」
つぶやきが聞こえなかったアンナが問うと、クラトスは、もう一度、鼻で笑ってアンナを見た。
「アンナ・・・・・今回は、本当に世話をかけたな。礼をしたい。何か、望む物はないか?」
「気にしないで。お礼がほしくてやったわけじゃないもの」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
それきり、クラトスはだまってしまった。何か、別のことを考え始めたようだ。そう思ったアンナは、一緒になって口を閉じた。
二人は、満天の星空の下を歩き、砂漠に入る前に野宿した。そして、朝早くから起きて旅を続け、その日の夕方に、ようやくシルヴァラントベースへとたどり着いた。
前回は手荒い招待をされた二人だったが、今度はちがった。建物の正面に立つ兵士は、クラトスとアンナを見つけると、礼儀正しく接して、建物内部へと案内した。
(・・・・・ユアンさん、元気にしてるかな。また指輪を落としたりしてないでしょうね・・・・・・・・)
そんなことを考えていたアンナは、まるで、自分が古くから交流のある友人に久しぶりに会うような親しい気持ちになっているのに気づいてほほ笑んだ。
ユアンは、悪い人ではない。良い人でもないけれど。そして、結局、彼は、にくめない人なのだ。
それでいい。それだけで・・・・・
一人でにこにこ笑っているアンナを見て、クラトスが口のはしを上げた。
「・・・・・・・・・・余裕だな」
「あら、あなたはうれしくないの?せっかく、お友達に会えるのに」
「・・・・・・時と場合によるだろう」
そう言いながら、クラトスは、ずっと緊張(きんちょう)を解かずに息をつめ、辺りの様子をうかがっている。戦士がエクスフィアを失い、武器も持たずに敵陣(てきじん)へ乗りこんで生きて帰ろうというのだから、不安になるなという方が無理だろう。アンナは、そんなクラトスの気持ちを察して、歌を歌った。
こう だきしめよう
魂と心を
たとえ ひとときでも
クラトスは、何も言わなかった。二人を先導する兵士も、だまって歩きながら、広い回廊にひびきわたる歌声に耳をかたむけているようだった。
愛を運ぶ風・・・・・・
魂と心をゆさぶることの出来るすばらしいもの
それは、歌
人を包んでやさしくいやし
言葉では通じない魂と心を結ぶ
アンナは、高鳴る胸をおさえて、朗々と歌った。
(この想いがみんなに伝われば、争いは、きっとなくなる・・・・・!)
アンナと父様-長いお話『愛を運ぶ風』 |