みんなの聖☆バレンタイン

10、告白


クラトスは、ふいに背後から飛びこんできた気配に気がついてふり返った。

そこに、リフィルが立っていた。かなり緊張(きんちょう)した面持ちで・・・・・

「・・・・・リフィルか」

クラトスが声をかけると、リフィルは、困ったように笑った。

「・・・・・アンナさんだと思って?」

「・・・・・・・・・・・・」

クラトスは、返す言葉につまってしまった。その気配からアンナでないことは分かっていたが、もしかしたらと期待したのは確かだからだ。

リフィルは静かに歩みよると、小さな箱をそっと差し出した。

そして、できるだけ感情のこもらない声で説明する。子供に授業を教えるように。

「他のみんなにわたしたのだから、あなたも、どうぞ受け取って。・・・・・私の教え子たちが、いつも世話になっているお礼です」

「・・・・・・・そうか」

クラトスはそう言ったものの、すぐにはチョコを受け取ろうとしなかった。どうやら、あたりの気配を気にしているようだ。

リフィルは、思わずふきだして言った。

「アンナさんなら、ロイドのところへ行ったわ。私があなたにチョコをわたすことも彼女は知っているから安心して」

それを聞いて、クラトスはようやく緊張をといた。

「・・・・・あれに会ったのか?何をしていた?」

「私に聞かないで、本人にたずねたらどう?」

「すまん・・・・・・・」

アンナの話になると、クラトスは、いつもは決して見せることのない豊かな感情を表にあらわす。とても人間らしく、とても魅力的に。

「クラトス・・・・・」

「・・・・・・・・・・?」

「アンナさんって・・・・・すばらしい人ね」

リフィルは、心からそう思って言った。

自分では決して出来ないことをさらりとやってのける彼女の決断力や行動力に感心しているだけではなく、何よりもリフィルがうらやましかったのは、アンナが、他のだれよりも、クラトスをいきいきと輝かせることが出来ることだった。

ちりちりと、リフィルの心がやけつく。

クラトスは、困ったように視線をさまよわせ、少しして、ぽつりとつぶやくように言った。

「・・・・・ありがとう」

まるで、自分のことのようにうれしそうだ。

そう思ったとたん、リフィルの瞳になみだがあふれた。

(・・・・・かなわない。かなうわけない・・・・・・・・・・・私の想いなんて・・・・・!)

「・・・・・リフィル?」

リフィルは思わず手をのばし、全身をクラトスに投げかけていた。

「どうしたのだ?」

クラトスの胸に顔をうずめると、それまでにずっとがまんしていた何かが一気にはじけた。

「うっ・・・・・うわあぁああ!」

「リフィル?」

「動かないで!・・・・・どうか、今だけ・・・・・」

今は、彼のうでの中に私がいる。

今は

今だけは・・・・・・・・・・・・・・・・・

リフィルは、自分でもおどろくほど大きな声をあげてないた。

これまで感情をおさえることしか知らなかったリフィルにとって、こみあげる思いをそのままはきだすということは、とても不思議で、不安で、そして・・・・・心地よかった。

からっぽで何も考えることができない彼女の耳に、アンナの声が くり返しくり返し響く。




ただし、条件があるわ。






クラトスとロイド、二人を幸せにすること。






そして、二人が道をあやまった時には、あなたが命をかけて正してあげること。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・できる?




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