みんなの聖☆バレンタイン

6、浮気現場、目撃?


「まったく・・・・・あれは、何をしているのだ・・・・・」

クラトスは、まだアンナをさがしていた。

街中をぐるりとひとまわりして再び宿屋にもどってきたところで、クラトスは、信じられない光景を目にして言葉を失った。

リーガルとアンナが、うでを組んで歩いてたのだ。

天使の耳を持つクラトスに、はなれた場所にいる二人の会話が飛びこんでくる。

「クラトスどのがあなたをさがしていたが、何も言わなくて大丈夫なのか?」

「いいのいいの。それよりも、早く中へ入りましょう。みんなに見つかったら大変だわ。特に、クラトスには、絶対にヒミツなんだから」

そう言って、二人は宿屋の中へ入って行った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

クラトスがぼうぜんとしていると、彼を見つけたロイドが走り寄って来た。

「クラトス〜!母さん、いたか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「クラトス?」

ロイドが、無言で立ちつくす父親の顔をのぞきこむ。その表情は全く感情をともしていなかったが、かすかにくちびるがふるえているのを見たロイドは、思わず後ずさった。一瞬、切られるかと思ったのだ。

クラトスは、ロイドの存在にまるで気がついていないのか、こぶしをにぎりしめると、はきすてるように言った。

「・・・・・・勝手にするがいい!」

「と、とうさ・・・・・・・・・・?」

わけがわからず言葉を失う息子をその場に残したまま、クラトスは、マントをひるがえして姿を消した。


「ププププレセア!」

「ジーニアス、どうしました?」

「あああああああのあのあの・・・・・」

ジーニアスは、一人で散歩に出かけたプレセアを追いかけて港まで来ていた。港は、水あげされた魚のおこぼれ目当てにたくさんのネコが集まる場所なので、ネコ(・・・・・・というより、正しくは、にくきゅう)が好きなプレセアは、散歩といっては港へ足を運んでいた。

「ジーニアスも、にくきゅうですか?」

プレセアが、少し首をかしげてたずねる。

「え?ええと・・・・・・・・・・・」

ジーニアスは一瞬ひるんだが、このチャンスは二度とないと自分に言いきかせてプレセアを見た。

「これ・・・・・こここここ・・・・・・これっ!」

「・・・・・・・?」

プレセアの目の前に、小さな箱がつき出された。

差出人のジーニアスは、耳から首までまっ赤になってうつむいたまま、じっと動かない。プレセアが箱を取ってくれるのを待っているのだろう。

われ知らず、プレセアのほほがゆるんだ。

プレセアはすぐに箱を受け取ると、もう一度ジーニアスを見た。

「・・・・・今、ここで開けていいですか?」

「ええっ!?こ、こここここで!!??」

すっとんきょうな声をあげたジーニアスが、ますます赤くなる。

「そうですね。・・・・・・では、場所をかえましょうか」

ジーニアスが場所を気にしていると思ったプレセアは、彼のうでをつかんで歩きだした。

「ちょ、プププププレセア!どこにいくの?」

「・・・・・・人のいない場所」

「えぇえええええ〜っ!」

口では反対しているように聞こえるが、ジーニアスは、とことことプレセアについて行く。

あたりを見まわしてみると、ちょうど波止場がすいていたので、プレセアは、そこへジーニアスを連れて行った。

「では・・・・・・・・・・」

プレセアが、さっそく箱を開けてみる。

歩きまわるうちにすっかり観念したのか、ジーニアスは、もう、何も言わなかった。

「・・・・・これは・・・・・・・」

プレセアが目を見開いた。

箱の中には、にくきゅうの形をしたチョコレートが入っていた。

「ボボボボボクボクボク・・・・・・ほほほほ・・・・・」

ジーニアスは目をつぶってそこまで言うと、ごほんとせきばらいして、思いきりさけんだ。

「本命だからねっ!」

「本命・・・・・・・ですか」

プレセアは首をかしげた。

自分がロイドへむける本命と ジーニアスが言ってくれた本命が同じかどうかは分からなかったが、プレセアは、彼の気持ちが素直にうれしかった。

プレセアは、波止場のところどことに置いてあるベンチのひとつにチョコを置くと、こしから短剣を取り出した。

「プレセア?」

ジーニアスが、不安げな顔になる。

しかし、プレセアは、おかまいなしに短剣をふりあげ、チョコへとふり下ろした。

「うわあああっ!!」

ショックを受けたジーニアスが、その場にしゃがみこむ。

プレセアは、見事にふたつに割れたチョコの半分を取り上げると、ジーニアスに差し出した。

「ジーニアス」

「・・・・・・?」

「一緒に、食べましょう」

「プレセア・・・・・・・・・・・・」

見開かれたジーニアスの瞳に、うっすらとなみだがうかぶ。

「・・・・・・・?」

何か気にさわることがあったのかと それまでの自分の行動を思い返したプレセアは、ふと、大切なことに気がついて口を開いた。

「ああ・・・・・お礼がおそくなりましたね。ジーニアス、ありがとう」

そう言って、プレセアは笑った。

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