8、秘められた想い
クラトスは、街を出た近くの森の中で、一心不乱に剣のけいこをしていた。
そうしなければ、余計な事を考えてしまうからだ。
(アンナはなぜ、私に、かくし事をする?)
二人は、だれもが認める正式な夫婦なのだ。今さら、かくし事など必要ないはずなのに・・・・・
クラトスは、乱れる心を落ちつけようともせず、がむしゃらに剣をふるった。
「・・・・・・・・・・」
その様子を、はなれた場所からそっと見守る影があった。
リフィルだ。
彼女の胸には、チョコの入った箱がしっかりとだきかかえられている。
クラトスをよび、チョコをわたしたら、一体、彼は、どんな顔をするだろうか。
受け入れてもらえる可能性は、ゼロに等しかった。
それが分かっていても、リフィルは、どうしても自分の想いを伝えたかった。
(クラトス・・・・・!)
「・・・・・今がチャンスよ!」
「・・・・・!!」
リフィルは、おどろきのあまり止まると思った心臓に手をあてて声の主を見た。
すぐとなりにいたのは、アンナだった。
「あ、あなた・・・・・いつの間に・・・・・」
クラトスに気づかれないように、リフィルは声をひそめる。
アンナは、不思議そうに首をかしげて答えた。
「ずっといたわよ」
そして、アンナはにこっと笑って、リフィルの手にある箱を指さした。
「それ、クラトスにあげるんでしょ?」
みるみるリフィルのほほが赤くなる。
「あの人、意外と見栄っぱりだから喜ぶと思うわよ。ささ、早く行ってあげて♪」
アンナが背中をおすので、リフィルは必死に抵抗(ていこう)した。
「ま、待ってちょうだい!まだ、心の準備が・・・・・」
その場にぺたりとしりもちをついて、リフィルは、じろりとアンナをにらんだ。
「あなたは・・・・・嫌ではないの?」
「なにが?」
「自分の夫が・・・・・他の女からチョコをもらって・・・・・」
「どうして?あの人がモテるのはうれしいわ」
さらりとこたえてから、アンナは、やっと気がついたという顔をして、ぽんと手を打った。
「もしかして、リフィルさん・・・・・・・本命なの?」
「!!!!!!」
リフィルは、何も言えなくなってうつむいた。自分は、とても人には言えない後ろ暗いことをしているのではないか?そんな思いがリフィルの心を責めた。
アンナは、じっとリフィルを見ていたが、そっと彼女の手を取って・・・・・笑った。
「ねえ、リフィルさん。もし、あなたが本気なら・・・・・わたし、身を引いてもいいわよ」
「な、何を言うの?」
予想もしないアンナの言葉に、リフィルの思考が混乱する。
「だって、私はもう死んでるから、あの人は独身ってことになるでしょ。それに、あの人もあなたも長生きだし。・・・・・私も、あなたならイヤじゃないわ。どう?考えてみない?」
「あなたは・・・・・・・」
なんてとんでもないことを平気で言うのだろう。どうして、平気で言えるのだろう。
リフィルが言葉を失っていると、アンナは、急に真面目な顔になった。
今までに だれも見たことがないのではないかと思えるほど真剣な顔をして、アンナは言った。
「ただし・・・・・条件があるわ」
アンナと父様-長いお話『みんなの聖☆バレンタイン』 |