みんなの聖☆バレンタイン

5、アンナとチョコのゆくえ


クラトスは、一人であちこち歩きまわっていた。アンナがチョコ作りを指導するとは聞いていたが、すでに数人からチョコをもらったというのに、かんじんの彼女の姿がどこにもないのだ。

クラトスは、もしかしたらと思い、女性たちがチョコを作っていた台所へと足を運んだ。

台所のドアを静かにノックして中をのぞいてみると、コレットが、たった一人でチョコを作っていた。

「・・・・・・・神子よ。アンナは、どこへ行ったのだ?」

不機嫌な顔が分からないようにできるだけ下を向いてたずねると、コレットは、少しほほをあげて言った。

「さあ・・・・・チョコが出来たあと、どこかへ行ったみたいですよ?クラトスさんをさがしに行ったんじゃないでしょうか?」

「そうか・・・・・じゃまをしたな。失礼する」

ゆっくりとドアが閉まった。その向こうで、足音が足早に去っていく。

しばらくドアを見つめていたコレットが、自分の胸元にむかって言った。

「アンナさん・・・・・いいんですか?クラトスさん、とってもおこってるみたいでしたけど・・・・・」

コレットの問いかけに、コレットの口が答えた。

「いいのいいの♪ 気にしないで♪それより、あとちょっと、がんばりましょ!」


「あ〜あ・・・・・せっかく作ったのにな」

しいなは、だれもいない場所で一人、原っぱにこしをおろして空を見上げていた。

あれから何度かロイドが一人になる時をねらってチョコをわたそうと試みたのだが、どれも失敗に終わった。どうしても、声をかけられなかったのだ。そのかわり、他の男子全員にチョコをあげることは出来たのだが・・・・・

「ロイドはきっと、あたしがチョコをあげなくても気にならないんだよ・・・・・いっぱいもらってるからさ」

なんとか自分をなぐさめようとするが、そうすればするほど、心臓がぎゅっとかたまっていく。

「バカだね・・・・・あたし・・・・・」

胸につかえた何かがあふれ、しいなの ほほを静かにながれた。

いつからだろう。ロイドを好きだと自覚したのは。

はじめは、ノリが似ていて相性のいいやつだと思った。ただ、それだけだった。それが、長い時間を一緒にすごしていくうちに、気がついた時には、友情が友情ではなくなっていた。

(でも、あたしの気持ちを知ったら、ロイドは・・・・・・・)

しいなの心にあるのは、「こわい」という気持ちだった。もし、彼に告白して、今の関係がこわれてしまったら・・・・・

それだけはいやだった。それなら、このまま友達でいる方がよっぽどいい。ずっと、彼のそばにいられるのなら。

しいなは、自分に言いきかせるようにうなづくと、手に持ったチョコの包みを開けた。

「・・・・・見つかる前に、食べちまうか」

口に入れる前に、自分のすべての想いをこめて作った大切なチョコをじっと見つめる。

そして、口に運ぼうとした時、ひょいと横からのびた指が彼女のチョコをさらった。

「ぜ、ゼロス!!??」

見上げると、しいなのチョコを持ったゼロスが、にやにや笑いながら彼女を見おろしていた。

「お前、ずっこいな〜。自分だけこんなゴージャスなチョコ用意しやがって。オレさまによこしな。ありがた〜く食ってやるからよ〜♪」

「ゼロス、それは・・・・・!」

しいなが止めようとしたが、ゼロスは、あっという間にチョコを食べてしまった。

「・・・・・うまいじゃねえか。ロイドみたいなお子ちゃまには、まだ早すぎるんじゃねえの?」

「・・・・・・・!」

いつもはにくたらしいゼロスの笑顔が、今は、とてもやさしい。

「・・・・・・・この、アホ神子〜!」

目の前にいるゼロスの顔がぼんやりとかすむ。しいなは、思わずゼロスに手をのばしていた。

ゼロスは、無言で彼女に胸をかしてやる。

「ま、チョコは、また作ればいいんじゃね〜か?ただ、お子ちゃまが、チョコの意味を分かるようになってからの方がいいと思うぜ」

そう言って、ゼロスは、いつもと同じ下品な笑い声をあげた。

「まあ、ロイドのことだから、一生わからねえと思うけどな」

ゼロスは、じわりとぬれて熱い胸もとに目をやると、しいなの頭を ぽんぽんとなでてやった。

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