月夜の闇の雨の詩

10、


「そうよ。夢なら信じられるわけ?」

アンナは、急に真剣な面持ちになったクラトスを見て笑った。

クラトスは、ひとつの予感に胸騒ぎを覚えた。

(もしかすると・・・・・・・・・・・)

アンナの説明は、クラトスの胸を躍らせるに十分な内容だった。

「あのね。あなたに会うずっと前。人間牧場で捕まっていた時に、 夢の中であなたに会ったの。びっくりでしょう?それでね、わたしは、 毎日ひどい目にあって、もう、死ぬしかないって思っていたんだけど・・・・・・・・・・・・」

「私が、生きろと言った・・・・・・・」

クラトスは、思わずつぶやく。

「そう。当たり!どうして知っているの!?」

「・・・・・・おそらく、同じ夢を見ていたのかもしれんな」

「ええっ!?本当に!?」

アンナは、感激した様子で声を高めた。

「ほらね。やっぱり運命だわ!わたしは、あなたに会いたくて 牧場を逃げたの。いつか、きっと会えると信じて・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・」

クラトスは、まだ狐につままれた様な気分で曖昧(あいまい)にうなづいた。 つい先ほど見た夢が、彼女にとっては過去の出来事だったというのは どういう事か。クラトスは、それこそ時空と空間を超えたのか? その答えはどこにも見当たらなかった。

「クラトス・・・・・・・わたしね、夢であなたに会って、 大切な約束をしたの。だけど、何を約束したのか忘れちゃって・・・・・・・・」

「おまえは、夢の内容を覚えていないのか?」

クラトスが問うと、アンナは、恥らうように笑った。

「・・・・・ほとんど忘れちゃった・・・・・・覚えていたのは、あなたの シルエットと、低い声と ・・・・・・・あ、あと、夢の中で、あなたが強引に迫って来て・・・・・・・・」

「・・・・・・・それで?」

「あなたは、わたしを牧場から無理やり連れ出して、 あちこち連れ回して、確か、結婚をせまったわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

どんな記憶力だ。いや、これは主観の相違なのか。クラトスは 何も言わず、アンナの話に耳をかたむけた。

「夢で会ってからずっと、あなただけが希望だった。 あなたが、わたしに生きる力と勇気をくれたのよ。 言えば笑うに決まってるから、今までナイショにしてたんだけど・・・・・・・ 言っちゃったわね」

アンナは、ぺろりと舌を出して肩をすくめた。

「・・・・・ねえ、あなたは、約束を覚えてる?」

「・・・・・・・・ああ。おまえは既に約束を果たした。・・・・・もう、何も気にするな」

クラトスは微笑み、アンナの頭を優しく抱き寄せた。

アンナは、クラトスの肌にぴたりとほほを寄せて安堵の息をついた。

「そう・・・・・・良かった・・・・・・・・・・・」

そのまま、アンナは眠りに落ちていったようだった。 安心しきった様子で四肢をのばし、すうすうと静かな息を たてるあどけない寝顔を見ていると、永遠の時間が瞬く間に過ぎていくような気がする。

大切にしたい。彼女の全てを。

クラトスは、これまでに知らなかった震える想いを覚えて目頭をおさえた。

「・・・・・私も・・・・・約束を守らねばなるまい・・・・・・な」

そうつぶやいたクラトスは、腕の中にある小さな頭に口づけて、静かに目を閉じた。











私は、生涯をかけておまえを護ろう・・・・・・・

おまえが、命をかけて私を探し当てたように

その全てを私に捧げたように

私もまた、おまえを支え、護りたいと願う


永遠に・・・・・・・・・・・・
































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+おしまい+

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