月夜の闇の雨の詩

3、


クラトスは途方に暮れていた。ノイシュから聞いた話は理解しているつもりだったが、では、いざ、どうすれば良いのか、皆目見当もつかなかった。

アンナは雨を怖がっている。そして、それゆえ、悪夢にうなされるのだ。

ならば、彼女の心を暗くさせている原因を取り除いてやれば良いのか。顔を合わせて、話をして、心の内を吐き出させて・・・・・・・・

私がついている。もう大丈夫だ。何も心配する必要はない。そう言って、力強く抱きしめてやれば良いのだろうか・・・・・・・

しかし、クラトスには、そうする資格がなかった。

いつも明るく前向きなアンナの心にひそむ闇。その原因は、ひとつしか思い浮かばなかった。それを作り出したのは、他でもない自分だ。直接手を下していないとしても、結果、彼女を苦しめた自分が、どうして安心しろなどと言えよう。実際に、二人はディザイアンから追われ、世界中を逃げ隠れしながら生きながらえている身なのだ。

もしかすると、アンナは、追っ手にかかる恐怖におびえているのかも知れない。

果たして自分は、護り手として、彼女から信頼されているのだろうか。

クラトスは自問する。

問うても問うても、答えは見つからない・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・では、行って来る・・・・・・・・・」

クラトスは、そう言って剣を取る。無言でうなづいたアンナも引き止めはしない。

それは、毎日くり返される暗黙の儀式。二人は見えない壁にへだたれて、決して歩み寄ることの出来ない境界線のギリギリにいた。

「じゃあ・・・・・・気をつけてね・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・・」

アンナが今、どのような顔をして見送っているのか。そして、これまでも、一体どのような気持ちでこの背中を見ていたのか。今すぐに足を止め、彼女に問うて知りたいが、それ以上に大きくて深い闇がクラトスの足をすくい、ふり返る勇気をうばう。

(・・・・・アンナ・・・・・・・・・・・・すまない・・・・・・・・・・・・)

クラトスは、後ろ髪を引かれる思いでドアを閉めた。

ザアアアアア・・・・・・・・

降りしきる雨が、クラトスの体に容赦なく打ちつける。

キィィ・・・・・

「・・・・・?」

しめった木のきしむ音がして、クラトスは足を止めた。かすかに顔をかたむけて背後の様子をうかがうと、小屋の外にアンナが立っているのが分かった。

ザアアアアア・・・・・・・

静かに迫る闇がクラトスの心にじわりとしみ入る。アンナの気配は、クラトスの背中にひしひしと注がれたまま、ぐらりとも揺らがない。


見ろ。

これが、おまえの犯した罪の証。

あの女は、罪の具現。

あれが生きる限り、おまえは責め続けられる。

その罪の重さに。その罪の深さに・・・・・


いたたまれなくなったクラトスは、地面をけって飛んだ。


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