明日にかける橋

5、


クラトスの心配をよそに魔物の気配はまったくなく、あたたかい日差しと おだやかな風に守られて航海は順調に進んだ。最初の予定では、湾を出て、 外から街を見たら帰ろうと話していたが、波はなく、ロイドの働きも優秀で、 気を良くしたアイフリードは、沖まで船を出して街を一望できる 場所で停泊してくれた。

ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・

ハル(船の横腹)に当たる波が優しい音をかなでる。コレットたちは、ゆらゆらとゆれる 船の上でのんびりとくつろいでいた。

「ひゃっほー!!!」

不意に、ロイドの奇声と派手な水音が辺りにひびいた。

「ロイド!?」

コレットが音のした方を見ると、ロイドは、海の上にうかんで気持ち良さそうに泳いでいた。

「ロイド、こらっ、バカ!何やってんだよ。早く上がって来なっ!!」

しいなの悲鳴が上がる。それまで一緒にはしゃいでいたジーニアスも、 顔色を変えて声をあらげた。

「ロイドったら、やりすぎだよ!魔物が出たらどうするのさ・・・・・・!!?」

そう言い終えないうちに、ロイドを見ていたメンバーが息をのんだ。 水面にゆらめく赤い服の下を、大きな黒い影が横切ったのだ。

「ロイド!!早く上がるのだ!!!」

誰よりも先に動いたクラトスが、言うが早いがロープを投げる。しかし、 おだやかな空を見上げていたロイドは、状況が飲みこめずに反応が遅れた。 次の瞬間・・・・・・・・・

「うわっ!!??」

「ロイド!!!」

瞬時の出来事だった。ふわふわと海面に浮かんでいたロイドの姿が消えた。 海中に引きこまれたのだ。

「ロイド!!!」

デッキに剣を投げ捨てたクラトスが後を追って海に飛びこむ。

「あのバカ!親子そろって似すぎだっつーの!!」

海中に消えていくクラトスの影をながめながら、ゼロスが空をあおいだ。

「後先考えない所でしょ?サポートするボクたちの事も考えて欲しいよねぇー」

と、ジーニアスが口のはしを上げる。

「遺伝による確率、100%・・・・・・どうしますか?」

「もう!早く助けてあげましょう!」

「クラトス!これを使いなっ!!」

クラトスの剣を海に投げようとしたしいなをリーガルが止める。

「待つのだ。これは、海中では役に立たない」

「じゃあ、どうすれば良いっていうのサ!!」

船上の誰もが気づかないうちに混乱していた。そんな中、こぶしをにぎって くちびるをかみしめていたコレットが、あっと小さな声を出して自らの荷物をさぐった。

「あった!!」

コレットが取り出したのは果物ナイフだった。おやつに食べようとたくさんの フルーツを持ちこんでいたのだ。

「ロイド!クラトスさん!これを使って!!」

もはや、二人の影も見えない。聞こえているわけはない。しかし、コレットは 祈りをこめてナイフを投げた。

 

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