明日にかける橋

3、


「・・・・・クラトスさん、どこへ行ったのかな〜・・・・・・」

「キュウーーーン・・・・・・」

コレットは、ノイシュの背に乗ってクラトスをさがしていた。クラトスが出て行ってからの 食卓は最悪だった。何が言い足りないのか、だらだらと文句をたれ流すロイドに、いい加減に 業をにやしたリフィルが激怒。気分を害したメンバー全員が食事を中座してしまい、料理当番の ジーニアスは、せっかくうでをふるったのにと、がっくりと落ちこんでしまった。

「ノイシュ、クラトスさんをかばったりしないで、ちゃ〜んとさがしてね。 私、どうしても言わなくちゃいけないことがあるの」

ウロウロと足を進めるノイシュの気持ちを察したコレットは、友の 耳をぴんと引っ張って言った。クラトスは何かと一人になりたがる。 ノイシュは、それを知っていて、案内しようかどうしようか迷っているのだ。

「くーん・・・・・・」

ノイシュは、しぶしぶと鼻を鳴らして歩き始めた。

クラトスは、野営地から少しはなれた浜辺にいた。波の届かない乾いた砂の上に 座り、波の向こうを見やったまま微動だにしないその姿はどこか悲しげだ。

コレットはゆっくりと砂をふみしめて、クラトスが気がつくように近づいて行った。 案の定、クラトスを見下ろせる場所まで近づいた所で、大きな背中から低い声がもれる。

「・・・・・・神子・・・・か。 何の用だ?」

クラトスはふり返らない。コレットも、それ以上の歩みを止めて言った。

「・・・・あの・・・・・・・・さっきの続きが聞きたくて・・・・・・・・えと、ほら、夢の話です〜」

一瞬、クラトスの背中が笑ったような気がした。

ザザー・・・・・ドドーン・・・・・・・・・・打ち寄せる波が浜辺に当たってくだける音が重い。 コレットは、それでも構わずに返事を待った。

「・・・・・・・・・・さきほど、聞いたろう?」

「えっ?」

コレットは、ぼそりともれた低い声が聞き取れずに首をかしげたが、 それを別の意味で受け取ったのか、クラトスは、どこか投げやりな口調で続けた。

「ロイドの言った通りだと言っているのだ」

「・・・・・・・世界一の剣士・・・・・・・・・・・・・ですか?」

それは、とても力強く、きらきらと輝いている言葉だと彼女は思った。

「ステキな夢ですね〜♪」

コレットは心からそう思って言ったが、急にクラトスが立ち上がり、 ゆっくりと彼女をふり向いた。その顔は、月明かりの逆光で見えなかった。

「・・・・・・・・・・帰って寝なさい。もう、おそい」

それだけ言って、クラトスはその場を立ち去ろうとした。

「待ってください! クラトスさん!」

思わず悲鳴に近い声が上がり、クラトスが足を止めた。

コレットは、じんわりとしめった手をにぎりしめ、いっぱいの気持ちをこめて言った。

「あの・・・・・・私は、うらやましいです。私には、ケンカしたり、 きびしくしてくれるお父さんがいないから・・・・・・・・ あの・・・・・それだけです!おやすみなさいっ!」

そう言って、コレットはきびすを返して走った。クラトスがどのような顔をして聞いていたのか、 いや、そもそも、ふるえる彼女の声が彼の耳に届いたのか、それすら分からなかったが、今、自分に 出来る精一杯のことをやった。それだけで満足だとコレットは思った。


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