7、別れ
よく朝、目を覚まして早速ポポタンの様子を見に行ったアンナは、友人の変わり果てた姿を見て悲鳴をあげた。
「キャア〜〜〜ッ!!!」
「・・・・・どうした!?」
ちょうど、小屋へもどるタイミングを待っていたクラトスが、急いでかけよる。
「・・・・・これは!」
そこに、昨日までの愛らしいポポタンの姿はなく、花は、いつの間にか、全身が真っ白いわた毛でおおわれていた。
クラトスを見上げるアンナの瞳から、大つぶのなみだが ぼろぼろとこぼれ落ちる。
「聞こえないの・・・・・・・・・・ぽぽたんの声が、聞こえないの!」
ようやくポポタンの残した言葉の意味を理解したクラトスは、アンナのかたをそっとだいて、自分の方へと引きよせた。
「・・・・・・伝言だ。私がいなくなっても、悲しむな・・・・・・と」
「・・・・・・・・・・・伝言・・・・・・・?」
きょとんとした顔で次の言葉を待つアンナに、クラトスは、小さくせきばらいしてから、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・・・私は、大地と共に生きるもの。この星にマナがあるかぎり、私は、姿を変えて、永遠に生き続けるのだと・・・・・・・そう、言っていた」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぽぽたん・・・・・・!!!」
アンナの顔が再びくしゃくしゃにゆがむ。彼女がその場に泣きくずれるのではないかと思ったクラトスは、思わず、彼女の背中をだきよせていた。自分の、広い胸の内に。
アンナは、クラトスにしがみついて、しゃくりあげながら、ふるえる声でつぶやいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と。
それからしばらくして、クラトスとアンナは、小屋から少しはなれた丘の上に立っていた。ポポタンを連れて・・・・・・。
アンナは、ふわふわした わた毛にほおずりすると、なみだをいっぱいにためた瞳で、なごりおしげに親友を見つめた。
泣かないと決めたはずなのに、次から次へと、なみだがこぼれる。
「・・・・・・楽しかったね。いっぱい・・・・・・いっぱい、ありがとう・・・・・・・」
そう言って、アンナは、深く息をすいこんだ。
晴れわたった空に、白いわた毛が まい上がる。
一気に飛び散ったわた毛は、あっという間に風に乗り、ゆるやかな列を作って、大空へと運ばれて行く。
「・・・・・・・いつか、いつかまた・・・・・・きっと、会おうね・・・・・」
アンナは、まばたきひとつしないで、ポポタンの新しい旅立ちを見送っていた。
クラトスも、だまったまま、アンナと同じように空を見上げている。
やがて、風に運ばれていったポポタンがすっかり見えなくなったころ、大きなため息をついたアンナが、ようやくふり返った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行っちゃったね・・・・・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・しかし、あれは、これから新しい土地を見つけて大地に根をおろし、やがて、再び 花をさかすのだろう」
「うん・・・・・・・・・・そうだね・・・・・・・・・・・・・・・」
再びそう言って笑ったアンナは、何かを思い出した様子でクラトスを見ると、さらに大きな笑みをこぼした。
「・・・・・・・ねえ、クラトス」
「・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「ぽぽたんをくれて、ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんのことだ」
クラトスは しぶい顔をしてしらばっくれようとしたが、アンナは、くすくすと笑いをこらえながら言った。
「うふふ・・・・・・・ぽぽたんに、教えてもらっちゃったもんね〜♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
とっさにうつむいて、クラトスは、アンナに背を向けた。
その様子をいとしげに見つめていたアンナが、ふいに、ぽつりともらす。
「・・・・・・・・・・私も・・・・・・・ポポタンみたいになりたいな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」
クラトスは、背中を向けたまま答える。
「もう。意味わかって返事してる?」
アンナが笑って言うと、返ってきたのは、しばしのちんもく。
分かっているのか、いないのか。
しかし、アンナには 分かっていた。彼が、分かっていないということを。
「・・・・・・・どうしようかなぁ・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って少しためらってから、アンナは、思いきったように、だが、はじらいながら口を開いた。
「わたしも、彼女みたいに残したいの。わたしが・・・・・・生きたあかしを」
「・・・・・・・・・・おまえの、望むようにすればよかろう」
そう言うクラトスの背中は・・・・・とてもやさしい。
しかし、彼の対応に満足できなかったアンナは、そっとクラトスに歩み寄ると、彼のうでをだいて、空をにらんでいる横顔を見つめた。
それから、そっと、小さな、小さな声でささやいた。
彼女が、今、一番、彼に伝えたいことを。
いつもと同じ朝。 いつもと同じ時間。
いつもとちがうのは、顔を真っ赤にしたアンナと、
言葉を失って立ちつくすクラトス。
いつもと同じ朝。 いつもと同じ時間。
いつもと、ちがう二人・・・・・・・・・・・・・・・・・
おしまい
20050915
アンナと父様-長いお話『アンナの誕生日』 |