アンナの誕生日

2、ある朝の出来事


いつもと同じ朝。 いつもと同じ時間。

いつも通り、日の出と共に目をさましたアンナは、すっかり朝食の準備をすませて、昨日の夜から、剣のけいこに出かけたクラトスの帰りをまっていた。

クラトスは、空を飛んで帰ってくることもあれば、森の中を歩いてもどる時もあった。

「もうそろそろね・・・・・」

太陽の位置を確かめて、アンナは、ゆっくりと立ち上がった。彼は、いつも計ったように、ぴったり同じ時刻にもどるのだ。

アンナが、くすぶった たき火の火を再び起こして石積みのコンロの上になべを置いたとき、彼女の側でねそべっていたノイシュが、むくりと上半身を起こした。

「アンナ。帰って来たよ〜」

いつもと同じ朝。 いつもと同じ時間。

ふり向いて見えたのは、待ちに待った彼の姿。

アンナは、なべつかみを手にしたままかけだすと、ゆっくりと歩いて来るクラトスに飛びついた。

「クラトス!おはよう!」

「・・・・・・ああ」

クラトスは、がっちりとだきついてはなれようとしないアンナの好きにさせたまま、彼女の髪をやさしくなでてつぶやく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・おはよう」

そして、そのまま、アンナのかたをだいて歩き出して言った。

「・・・・・・アンナ、私は、食事の後、調べたいことがあって遠出する」

たんたんと説明するクラトスを見上げて、アンナは、がっかりした顔を見せないように、できるだけ笑ってみせた。

「そう・・・・・・・・・・気をつけてね。いつ、帰れそう?」

「食事がすんだら、すぐ出発する。・・・・・・おまえも用意しろ」

「えっ? わたしも、行っていいの?」

おどろいたアンナが立ち止まると、ようやくタイミングを見つけたようにクラトスの体がはなれた。彼は毎日のように出かけるが、いつでも「危険だから」、「じゃまになるから」という理由をつけて、アンナを連れて行ってくれたことは一度もないのだ。

「・・・・・本当に? 本当に、いっしょに行っていいの?」

まだ信じられないアンナが念をおす。聞きまちがいだったら、後でがっかりするのは自分なのだ。しっかりと確かめておかなければ。

クラトスは、少しこまったようにうつむいて言った。

「ああ・・・・・・本当だ」

「ありがとう!」

もう一度 彼の体にだきついて、それからアンナは、クラトスのうでを引っぱってせかした。

「ねえ、急いで食べちゃいましょ♪早くお出かけしたいもの!」

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