扉を開けて

4、


「それで?私が、毒をもられると・・・そのようなことを気にしていると思ったのだな?」

「・・・・・・・・・・・・・・はい///」

小屋にもどって解毒してもらったアンナは、バカだった自分を反省しながら、何もかも話すことにした。あれこれ心の中でなやんでいた全てのことを、どうしてもクラトスに聞いてほしかったのだ。思いを伝えるだけでいい。アンナは、もう、見返りを望もうとは思わなくなっていた。

クラトスは、最後まで何も言わずに話を聞いていたが、アンナがだまりこんだのを確かめると、やれやれと頭をふってつぶやいた。

「・・・・・・・・だから、目がはなせないのだ」

「えっ?」

アンナが目を丸くすると、クラトスは、フッと鼻で笑った。

「まったく・・・料理すれば毒にあたるし、歩いていても毒にふれるようでは、先が思いやられるな」

「ちょっと。いつ、誰が料理に毒を入れました?勝手に話を大きくしないでほしいわ!」

アンナが口をとがらせると、クラトスは、かすかに目を見開いた。

「おまえは・・・・・・・・・・覚えていないのか?」

「・・・・・・・・・・・・・なにを?」

首をかしげたアンナの背中に、ノイシュが どかりと足を置く。

「え〜っ!アンナ〜、会ってすぐのころ、自分でとったキノコを食べて、毒にあたってたじゃない!」

「ええっ!?わたしが??」

「本気で覚えていないのだな・・・・・・・・・・」

クラトスのしぶい顔を見ると、どうやら作り話ではないらしい。アンナは、けんめいに記憶(きおく)の糸をたぐってみたが、どうしても思い出すことが出来なかった。

「・・・・・あれは、神経をマヒさせる作用があるからな。軽い記憶障害を起こしたのかもしれん」

「も〜!出かけちゃったクラトスをよびもどすのに、ボク、声が出なくなるぐらいさけんだんだよ。頭もイタくなって、本当に大変だったんだ。それなのに、クラトスったら、めちゃくちゃおこるんだよ。あんなの、二度とごめんだからね!」

「そう・・・・・・・・なの?」

アンナは、みるみる全身がほてるのを感じて、あわてて両手で顔をかくした。

「ああ〜。うそ・・・・・もう、信じられない!」

真っ赤になって落ちこむアンナを見たクラトスが、なぐさめるように言った。

「私は、毒に耐性(たいせい)がある。少々口にしたところで平気だ。しかし、おまえはそうではない。だから、用心していただけなのだ」

「そうそう。アンナが、また一人で勝手に毒らないようにね」

そう言って、ノイシュはフンフンと鼻を鳴らした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・///」

穴があったら入りたい。そう思ったアンナが指の間からクラトスの様子をうかがうと、彼は、笑っているように見えた。とてもおだやかな顔をして、しかし、あきれた表情をうかべて。

「・・・・・・おこった?」

「・・・・・・・・・・・いや」

クラトスは、そう言ってゆっくり立ち上がると、部屋のすみに置いた皮ぶくろの中から 小さく折りたたんだ紙を取り出した。

「アンナ、これを」

「なあに?」

受け取って開いてみると、これまでにアンナが見たことのない絵が印刷されたお札が一枚あった。不思議そうに絵をながめるアンナに、クラトスがたんたんと説明する。

「それ一枚で、金貨十枚分の価値がある。明日になったら街へ連れて行ってやるから、好きな食材を買ってきて、自由に調理するがいい」

「金貨10枚!!」

普段生活するのに必要なのは、ガルドという銅貨でじゅうぶんだ。アンナはこれまで、本物の金貨も見たことがなかった。それなのに、手の中にあるのは金貨十枚分の紙幣(しへい)というのだ。おどろいたアンナは、急いでお札を返そうとした。

「ダメよ!これは、あなたのヘソクリでしょう?食材は、わざわざ街まで行かなくても、野山にいくらでも・・・」

「ダメだ!」「だめぇ〜っ!!!」

今度は、クラトスとノイシュが声をあげた。特にノイシュは、毒キノコの一件でよほどイヤな思いをしたのか、耳をふせると、しっぽをお腹に巻きこんで言った。

「アンナ、アンナ。街へ行こうよ。クラトスがお金を出すって言ってくれてるんだし。ねっ?ほら、明日は、何を作ってくれるの?」

「・・・・・・・・・本当に・・・・・・・・・・・・・いいの?」

アンナがもう一度たずねると、クラトスは、真剣な顔をしてうなづいた。

「私はかまわん。おまえが、道ばたでひろった正体の知れぬ物を入れぬ限りは・・・・・な」

「クラトス!」

アンナは怒った声を上げたが、その顔は、すっかり明るく輝いていた。

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