扉を開けて

1、


クラトスは川辺をぶらぶらと歩きながら、時々、思いついたように川原の石をひろっていた。1個、2個、3個・・・・・大した時間もたたない内に、彼のうでの中に こぶしほどの大きさの石が積み重なっていく。それは、どれも同じ大きさできれいに角が取れていたが、クラトスはまったく興味(きょうみ)のない様子で、すぐそばにほった浅い穴の中にごろごろと投げ入れた。

それからクラトスが片方のひざをついてしゃがみ、大きな手で石をなでると、穴の底は、すっかり石でかくれてしまった。しかし、クラトスはそれもおかまいなしといった様子で、石の上にかれた松の葉をしきつめると、その上に手ごろな長さの枝をならべて、今度は、松の葉を指さして、一言二言、何かをつぶやいた。

指先で明るい光がパチパチと鳴り、次の瞬間には小さな火が生まれた。松の葉がめらめらと燃え上がり、あっという間に火を枝に移していく。それすらどうでもよさげにながめていたクラトスは、不意に火がゆらめいたのを見て、やっと気がついたというように背後に視線を動かした。

そこに、アンナがいた。少しはなれた場所でえんりょがちに立っている彼女の瞳が、けんめいにクラトスをよんでいる。

「・・・・・・どうした?」

クラトスが声をかけてやると、アンナはうれしそうに顔をほころばせたが、すぐに緊張(きんちょう)した顔にもどって言った。

「あの・・・・今日のごはんは・・・・・わたしが作っても・・・・・・・・・・・いい?」

クラトスは応えない。しばらくの間があって、小さな息をはいてから、クラトスが言った。

「・・・・私の料理に、あきたのか?」

「ちがいます!」

アンナは顔を赤くして答えた。ちがうわ。もう一度そう言って、アンナは、スカートをにぎりしめた。

「あなたのお料理は、いつも、とってもおいしいわ。でも、あの、いつも作ってもらってばかりだから、たまには、わたしが・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・だめ?」

アンナは、願いをかけるように真剣なまなざしでクラトスを見つめて言った。しかし、クラトスは、視線を火に移すと、短くつぶやいた。

「・・・・・よけいな気づかいは無用だ」

「・・・・・・・・・・そう」

アンナはどこか悲しそうに笑い、少しの間を置いて、ぽつりと言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」

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