扉を開けて

3、


「ねえ、アンナ〜。どこまで行くの?クラトスが心配するから、そろそろ帰ろうよ〜」

ノイシュは、もくもくと歩き続ける背中に声をかけると、その場に座りこんで言った。

「後でおこられるのは、いっつもボクなんだからねー」

「・・・・・・・・・・ねえ、ノイシュ。」

アンナは足を止めると、前を向いたままつぶやいた。

「・・・・・・・・このまま帰らなかったら、彼は、どうするかしら?」

「なにそれ、家出〜?」

ノイシュは特におどろいた様子もなくさらりと言うと、ぴくりと耳を動かして言った。

「う〜ん。無理だと思うよ。だって、そこにクラトスが・・・・・あっ!」

「アンナ!!!」

「きゃあっ!」

不意に、三人の声が重なった。何が起こったのか、アンナには分からなかった。ただ、ノイシュとクラトスの声がひびいてから、左足に激痛が走った。それだけだった。

アンナの目の前がぐらりとゆがみ、うっすらとぼやけていく。来てくれた。クラトスが、むかえに来てくれた。幸せな気持ちが全身にあふれ返る。その喜びで頭がいっぱいになったアンナは、なぜ、自分が気を失いかけているのか考えるよゆうがなかった。

・・・・帰らなくては。彼が、まっている・・・・・・・・・・・・・

遠のく意識のすみで、アンナは、けんめいにクラトスの姿をさがしていた。

「アンナ!」

もう一度クラトスの声がして、あたたかい何かが彼女の全身を包みこんだ。声に導かれて視線を上げると、目と鼻の先にクラトスの顔がある。

「ふぁお〜・・・・」

クラトス。そう言いたいのに、なぜかあごが動かない。それで初めて、アンナは、全身がしびれていることに気がついた。

「・・・・フ」

赤い瞳がかすかにゆらめき、口のはしがゆっくりと上がった。

「静かにしていろ。毒草のツルに ふれたのだ」

短く言ったクラトスが、低い声でファーストエイドをとなえた。しびれは取れないが、全身に力がもどってくる。アンナは、まだこれが現実と思えないまま、ぼんやりとクラトスの顔をながめていた。彼は、いつ来てくれたのだろう。いや、いつからここにいたのだろう?

「・・・・・帰るぞ」

ふわり。アンナの体が宙にうく。

クラトスは、それっきり何も言わなかった。アンナは、彼にだかれたまま、後から後から流れるなみだを止めることができなかった。その広い胸はとてもあたたかく、がっしりとしたうでは力強い。

(・・・・・・・・・・クラトス・・・・クラトス・・・・クラトス・・・・・・!)

一体、自分は、何を心配していたのだろう。彼はここにいる。いつも、いつも、すぐそばに。彼がいてくれたら、他には何も必要ないではないか。それだけで、もう十分すぎるではないか。

アンナは、言葉にならないと分かっていたが、言わずにはいられなかった。

・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・と。

P.3  1. 2. 3. 4. 5. 6.

+次のページ+

お話トップへもどる アンナと父様-長いお話『扉を開けて』
copyright(c) kiyotoshi-sawa All rights reserved.