「……ってことがあってさぁ、大変だったぜ」
ロイドからの説明が終わると、女性メンバーは口々に「大変だったね」「ご苦労様」という旨のことを言ってきた。こっちは、大変では済まされなかった。危うく、またあのアホの分身を押し付けられそうになったしな。
ユアンは内心でそう愚痴ると、深く溜息を吐いた。
「いやー。変なことに巻き込まれなくて、運が良かったね」
まったくだ。羨ましいぞ、しいな。
「けど、やっぱり私、その魔帝という方を一度この目で見てみたかったですわ」
やめておけ、セレス。お前が思っているほど生易しくない。
「結局、何をしに来たんだろうね、バイアスはさ」
「単に騒ぎたかっただけでないの?」
ジーニアスの疑問への返答は、ゼロスのもので間違いないだろうな。
「ああ……魔界の歴史や他の世界との文化的関連など、聞きたいことは山ほどあったというのに……ロイド! どうして引き止めなかったのだ!!」
「む、無理だよ、先生。そんなの〜」
……案外、これから逃げたのか?
そうやって心の中でツッコミを入れ続けていたユアンに、マーテルが声を掛けてきた。その後ろでは、ジーニアスとプレセアがバイアスの置いていったプリニー達と「お手玉」という遊びで遊んでいた。
「寂しくなるわね、ユアン」
「マーテル。何度も言っているが、私は心の底からほっとしている。……それからその……なんだ」
まさかマーテルが……とも思うが、彼女の性格からしてありえないこともない。しかし、もしもそうでなかったのなら、彼女の信頼を裏切ることにも……。
「なぁに? ユアン?」
「ユアンさん、具合でも悪いんですか?」
いつまで経っても続く言葉を出さないユアンを、マーテルとコレットは不思議そうな表情で見ていた。
……マーテルとコレットが同じくらいの天然だと考えると、やはり、聞いた方がいいな。
決断すると、ユアンにしては珍しく、歯切れの悪い小さな声で、マーテルに尋ねた。
「あれに……変なことを教えたのではないか?」
「変なこと?」
「ああ、ユアンの赤っ恥ストーリーってやつか」
いつから聞いていたのか、ロイドが突然、ユアンが敢えて言おうとしなかった言葉を、あっさりと言ってしまった、
「バッ……ロイド! はっきりと言うな!!」
しかし、時既に遅く。この家にいる、外にいるノイシュと、ガーデニングに興じているダイクとプリニー以外の全員から、好奇の目を向けられている。
「それってさ、どういうのなんだ? やっぱり、落し物とかか?」
「それとも、マーテルさんとの恋愛関係でしょうか?」
「意外と、クラトスとかも関係しているんじゃないかい?」
「それとも、古代大戦の史料に関わるようなことか!? おお、是非とも聞きたい!」
「リフィル、落ち着け。誰もそうとは言っていないぞ」
リーガルが抑えてはいるが、遺跡モードとやらが本格的に発動寸前だ。アレの勢いには勝てる気がしないぞ……どうする。
「俺さまも、すっごい興味あるな〜」
黙れアホ神子。
「私も、ユアンさんとマーテルさんの昔話、興味がありますわ」
「昨夜のお話も面白かったよね〜、セレス」
「そうですわね、コレット。まさか、マーテル様と直接お話できる日が来るなんて……今でも信じられませんわ」
「おおげさですよ。私も、貴女達と同じ、この世界に生きる者です。精霊というだけで、それほど特別な存在ではないですよ」
マーテルは相変わらず、とても素晴らしいことを言っている。だが、少しはこっちに助け舟を出して……くれないか。マーテルの目からは、この状況も楽しいことと映っているだろうし。
すると突然、ゼロスが視線をユアンからセレスに移した。
「あれ? なによなによ? いつの間にコレットちゃんとセレスが仲良くなってるわけ?」
「マーテルさんと一緒に話してて、気があったみたいだよ。ゼロス、見てなかったの?」
「あ〜……ロイドくんとしいなとふざけてた記憶しかねぇや」
よし……話が逸れているな。この調子でいけば……
ユアンが微かな希望を見出した、その時。誰かがドアを叩き、入ってきた。
「ちぃ〜っす。ゼロス・ワイルダーさんに、特命希望の魔界の貴族さんからボトルメールで〜す」
「なに!?」
本当に送ってきたのか!?
「ロイド! ユアンを押さえておけ!」
「よし、任せておけ!!」
「僕も手伝うよ!」
「それー、突撃ッスー!!」
ゼロスからの指示を受けて、ロイドとジーニアス、そしてプリニー達が飛びついてきた。エクスフィアを装備している2人と、プリニーの圧倒的物量の前では、ユアンはなす術も無く倒されるしかなかった。
「は、離せ! ジーニアス、ロイド! プリニーもどけ!!」
「いいじゃないかよ、減るもんでもなし」
「そうそう。プレセアも興味あるみたいだし」
「オレ達もボーナスがかかってるんすよ。悪く思ってくれて全然構わないッスよー」
「私の尊厳とか色んなものが磨り減る!! とにかくやめろ!!」
ゼロスはボトルメールから封書を受け取ると、内容を確認した直後、ユアンの顔を見てニヤリと笑った。そして、マーテルの方へと進み出た。
「マーテルさまぁ、音読してもいいですかぁ?」
そう言って、バイアスからのメールをマーテルに渡した。
頼む、マーテル……
「内容も合っているみたいだし……いいんじゃないかしら?」
「良くない!!」
せめてもう少し悩んでくれ!!
「へ〜、ほ〜、ふ〜ん……なぁるほどねぇ〜」
内容を精読しているゼロスの顔からは、更にいやらしい笑みが浮かんでいた。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
ユアンの絶叫も虚しく、その後、彼は徹底的に遊ばれた。
宇宙を旅しているデリスカーラーン。
「えー、こちら中継のプリニーッス。見ての通り、こっちは珍しいユアンさんいじりで盛り上がってるッス。ペットのノイシュと家主のダイクさん、そして俺らもギャラリーとして存分に楽しんでいるッス〜」
「ご苦労。そのまま中継を続けてなさい」
「了解ッス」
「どうです? 皆さん、お元気でしょう?」
「ふっ……ユアンをだしにするのは、どうかと思うがな」
「はっはっはっはっ。ささやかな復讐です」
「しかし、すまなかったな、バイアス。魔王の襲撃からロイド達を守ってくれ、という無茶を聞いてもらって」
「何を言っているんです。我々は茶飲み友達ではないですか、クラトス・アウリオン」
「そうだったな。……この中継、いつまで可能だ?」
「なんなら特派員をつけて、ロイド君とコレットさんの旅を映させましょうか?」
「それではストーカーだろう」
「……ああ、そういうことですか。残念ながら、互いに顔を見ながらの会話は難しいですね。会話はそちらの通信機をお使い下さい」
「仕方あるまい。……そうだ。フランヴェルジュは? ロイドはヴォーパルソードしか携えていないが」
「撮影プリニー2号。例のお墓を」
「了解ッス」
「これ、ですよね?」
「……ふ」
「クラトス様。外に変なオッサンがいるのですが……」
「……ライオンのような顔をしているか?」
「はい。宇宙空間でどうやって生きているのかは謎ですが」
「放っておけ」
「はっ」
「おのぉぉぉぉれぇぇぇぇ!! 必ずリベンジしてやるからなぁぁぁ!! 覚悟しておれええええ!!」
無論、キングダークにもう二度と出番は来なかった。
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