「……なんだったんだ、今のアホは。……いや、待てよ。あいつ……まさか」
「どうしました、ゼタ様」
先程のアホな悪魔に、ゼタは微かに見覚えがあったが、ブレイズに呼ばれてそのことを意識から外した。
「いや、なんでもない。それよりも、我が下僕よぉ! 奴等をけっちょんけっちょんに……」
気付くと、下僕は近くに誰もおらず、これから戦う者たちとのんびり会話していた。
「ども〜。ゼタ様の下僕のリーダーをやってる、戦士のブレイズだ。よろしくな」
「拙者は、剣の道を究めんとする者、ソードだ。切り込み隊長を務めている」
「オレは、サブリーダーのジン。普段は、後方支援をしてる」
「魔界厨師のレックスだ、よろしくな! カカッカッカッカッ!」
「治療部隊の長を務めています、ヒーラーのレミです。死んでいない限り、どんな傷も私が癒します」
「にゃは、にゃっは〜」
「こいつは、デスサーベルのブネ。肉食だから、気をつけろよ」
「うわぁ、かわいい〜」
「……肉球」
ジンの指摘にもかかわらず、金髪と桃色の髪の少女は、ブネを撫で、肉球を触ったりしていた。ブネも、気持ちよさそうな声を漏らしている。
「にゃにゃ〜」
「クッキン、クッキン、レッツ・クッキン。クッキング・バトルゥ〜♪」
レックスは早速調理を開始している。マジメなのはこいつだけか……。
「うへ、助かったぁ……」
ブレイズたちは、インバイトした小屋の下敷きになっていた赤い髪の男を引っ張り出していた。ブレイズが小屋をひょいと持ち上げ、ソードが引き摺り出した。
「こんぐらいのもん、持ち上げればいいだろうによ」
「無理だっつーの! 俺さま、か弱いんだから〜」
「少しじっとしていてください。オメガヒール」
「おお! すっげぇ、髪も元に戻ったぜ!」
「髪? どういうことか教えてくんないかな、ハニ〜」
「あ、やべ……」
「それよりも、レミさん。治療してくださってありがとうございます。どうですか? こんな所を今すぐ抜け出して、一緒に……」
「レミに手を出すというのなら、俺が斬る」
「ソードの旦那とレミは、結構長ぁ〜い付き合いだぜ?」
「うっそー! こんなむさ苦しいオヤジが……」
「何とでも言え。が、肩と腰に手を回した分、多少斬られてもらおうか」
「うぇ! ちょっ……マジ?」
「いい気味だな、アホ神子」
もはや和やかな雰囲気さえ出てきたこの状況に、ゼタは肩をわなわなと震わせていた。そしてついに。
プッツン。
きれた。
「貴様らぁ! なにを勝手に和んどるかぁ!!」
ゼタの剣幕にこの世界の連中は一発で気圧されたが、もはや慣れっこのブレイズたちは涼しい顔をしていた。
「だって、ゼタ様の勝手で相手をするんですよ? 少しぐらい話したっていいでしょう」
「黙れ! 貴様ら、それでも魔王ゼタの下僕たる悪魔か!」
「そりゃ、ゼタ様の下でずっと戦ってりゃ、性格も丸くなるってもんですよ」
「……どういう意味だ?」
「ま、とにかく……」
ブレイズが剣の先端で、ゼタのおでこ?を軽く押した。すると、ゼタは簡単に仰向けに倒れてしまった。
「うお! ブレイズ、貴様! 何をする! くそっ、動けん!!」
ゼタはその場でじたばたと身を捩るが、どうしても起き上がれない。
「でっひゃっひゃっひゃっひゃっ! だっせ〜! 自分で起き上がれねぇのかよ!?」
「うっさい! 笑うなぁ!!」
それでも、この場にいるゼタ以外の全員は、ゲラゲラと笑っていた。特に、この世界の赤いコンビが。
「ま、取り敢えずそのままで待っていて下さい。すぐに片付けますんで」
「いよっし! みんな、これ食って精出せや! 料理は心だ!! クッキンバトルゥ!!」
『うおっしゃあぁぁ!!』
レックスの料理を食べて、全員の攻撃力は一時的に2倍になった!
「一気に決めるぜ! 秘技・魔剣王気!!」
ブレイズは天高く舞い上がり、辺り一帯を覆い尽くすほどの巨大な気を放出した。しかし、広範囲に効果を及ぼすものの、この技の威力は低めだ。ロイドたちは全員防御奥義で身を守っていたので、致命傷には至っていない。
しかし、防御に徹した結果、その後、一瞬生じる隙を見逃すほど、ソードとジンは未熟ではなかった。
「轟雷、参る!」
ユアンが体勢を整える前に、ソードは雷を纏った自身最強の剣戟、轟雷を放った。ロイドは第一撃を受けながらも、2撃目は何とか剣で受けた。だが、直後に落ちてきた雷に、成す術もなかった。
「いっけぇ〜! フレイム・ナーガ!」
ジンのライフルの一撃によって高く跳ね上げられたユアンは、その後もどんどん銃撃によって跳ね上げられ、反撃することも防御することもできずに、最後は地面に落下した。えげつないことこの上ない。
「……にゃぁっは!」
ブネは口を開けた。直後、それを間近で見たコレットとプレセアは、青い顔をして失神した。どっちだ!? どっちの顔が本体なんだ!?
「最後の仕上げに、手早く炒める!」
「どあっちゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ゼロスはレックスのフライパンで強火でさっと炒められ、最後は天高く跳ね上げられると、脳天にフライパンの強烈な一撃を食らった。
「はい、終わりましたよ」
ブレイズはそう言って、ゼタを起こした。ゼタはこちらを見回すと、感心した様子だった。
「ほう、生きているか。なかなかしぶといヤツラだ」
しかし、ユアンたちにその言葉を受け取る余裕は無かった。レミとマーテルの力で傷は癒えたものの、精神的なダメージや疲れは、まだ相当残っていた。
「し……死ぬかと思った」
「てか、マジで強いし……」
「エクスフィアをつけていなければ……死んでいたな」
その言葉に、ゼタは得意げに答えた。
「まあ、当然だな。我が下僕のレベル平均は700を超えている。500程度の貴様らでは、足元にも及ばぬわ! ふははははは!!」
「ちなみに、ゼタ様のレベルは6000だ」
「ろくせ……!?」
あまりにも桁違いな数字に、耳を疑った。恐らく、こちらのレベルとやらはあの時の「ゼタアーイ」とやらで計ったのだろうが、それが実力の指針だとすると、実に12倍もの差がある。
「いろいろあって、ここ最近ずーっと修行していたんだ。そして、あっという間にレベルが3倍に」
「近隣の魔王も、急速に力をつけてきたからな。我もうかうかとはしておれぬ」
ジンの補足に、ゼタは意外と謙虚に頷いた。それを、ブレイズが愉快そうな顔で茶化した。
「それでも、その姿じゃ倒れても、一人で起き上がることもできないんですよねぇ?」
「うっさい!……そうだ、ブレイズ。貴様、まさか我があのようなことを許すと思ったか?」
「げ!」
「お仕置きタァーイム! 時計台レベル666をインバァァイト!!」
今度は、巨大な時計台が振ってきた。
「うっぎゃああああ!!」
ブレイズと、またもゼロスが下敷きになった。
「な? あんなことばっかじゃ、レベルがこんなに上がってもおかしくないだろ?」
「むしろ、そうでなくてはやっていけん」
「確かに……」
ジンとソードの言葉に、ロイドも妙に納得していた。これが日常茶飯事ならば、確かに、強くなければやっていけないだろう。
「ロイドさん。ゼロスくんが巻き込まれています。いいのでしょうか?」
「た、助けてぇ〜……」
「わっ! なんか、本当にやばそうだぞ!?」
プレセアに指摘されてから見てみると、ブレイズは大丈夫そうだったが、ゼロスは、顔が青褪めていた。
「そういえば、時計台はインバイト時、範囲内の対象の動きを奪う能力があったな」
「つまり……?」
「早く助けないと、冗談抜きで危険ですね」
ソードとレミのさも当然そうな言葉に、ロイドたちは血相を変えた。慌てて、時計台へと駆け寄っていく。
「ゼ、ゼロスー!!」
ロイドたちは必死になって時計台を持ち上げようとするが、びくともしない。それを見かねてか、ブネがとことこと歩み寄り、片手で軽々と持ち上げた。
「うぇ!?」
「……だっはぁ〜。マジ、助かった〜」
「にゃんとぉ」
ゼロスの無事を確認すると、ブネは再びブレイズに時計台を投げ落とした。
「ぐへぇっ!!」
その様子を見ていたジンとユアンは、ゼロスの生命力に驚いていた。
「ってか、あれを受けて大丈夫って、人間のくせにどんだけ丈夫なんだよ」
「流石はアホ神子、といったところか。生命力はゴキブリ以上だな」
その会話を聞いてか、ゼタは口元に妖しげな笑みを浮かべ、目を光らせた。すこし、嫌な予感がする。
「面白い、気に入ったぞ!」
「へ?」
ゼタの突然の言葉に、ロイドが間抜けな声を出してしまっていた。ゼタはそんなことなど気にもとめない様子で、こちらに近づいてきた。
「おい、貴様らの名は?」
「ロイド・アーヴィングだ」
「ユアン」
「プレセア・コンバティールです」
「俺さまは、ゼロス・ワイルダー。『麗しの神子様』でもオッケーよぉ?」
「コレット・ブルーネルです。ところで、それがどうかしたんですか?」
「お前達を今日より、我が弟子としてやる。光栄に思うがいい!! ふはははははは!」
突然の提案に、プレセアや、こっそり見守っていたマーテルも驚いていた。唯一、コレットだけは喜んでいた。
「うわぁ、ありがとうございます!」
……なんでだ?
「な、なんで!?」
「諦めろ。アンタらに拒否権は無いさ」
そう言って、ブレイズはロイドの肩をぽん、と叩いた。確かに、あいつと同じノリを感じる。拒否しても、強引に押し切られてしまうだろう。
「ブレイズ、先に魔王城に戻っていろ。我は暫く、この世界に逗留する」
「え? あいつらを連れて行くんじゃないですか?」
「そうだ。この世界に留まり、この世界を我の色に染めてやるのだ! 他社のゲームだろうがなんだろうが、知ったことではないわ! ふはははははは! そして我は、史上最強にして永遠のRPG主人公となるのだぁ!!」
「なにを言っているのだ?」
ゼタが聞きなれない単語を乱発してきたので、隣のジンに尋ねた。すると、ジンは愉快そうに笑いながら答えた。
「こっちの話だよ。気にしなさんな」
「うっしゃあ! それじゃあ、新入り歓迎の料理でも作っか! カカッカッカッカッ!!」
レックスはそう言って調理を始めようとしたが、ソードにそんな暇は無いと諭されて、しぶしぶ中断した。
「そういうわけだ。そこの紅いアホ……ゼロスだったな? 貴様の家に厄介になる」
「へっ!? なんで!?」
「一番面白いからだ」
ゼタの突然かつ無茶苦茶な理由での指名に、ゼロスはがっくりと肩を落とした。
「……がんばれ、ゼロス」
「ゼロスくん、ファイトです」
「ゼロス、がんばってね♪」
「俺さま、がっくし……」
その様子を、ユアンは少し距離を置いて見ていた。すると、今まで大樹の守りに集中していたマーテルが、再びユアンの傍に立った。
「やっぱり、大勢いるほうが楽しいでしょう? ユアン」
「……ふん。別に羨ましくも無いし、馴れ合うことなど望んでいない」
「そう」
マーテルはクス、と笑いながら、いつもよりも無愛想なユアンの横顔を見ていた。ユアンはそれとなく、肩に手を回そうかと真剣に思い悩んでいたが、マーテルが再び話し始めたので、諦めた。(だからヘタレ四大天使なんだよ byゼロス)
「すっかり忘れていたけど、彼はどうなったのかしら?」
「……あのアホか。確かに、見かけんな」
アレの性格からして、無理矢理こちらの展開に割り込んでくると思っていたのだが。
救いの塔の瓦礫の影から、バイアスはユアン達の方をじっと見つめていた。
「皆さーん。ビューティー男爵は、ここにいますよぉー……」
今日は、みんなから積極的に絡んでほしかったバイアスでした。
アンナと父様-お話スペシャル!『テイルズ・オブ・日本一 第2話 宇宙最強の魔王、堂々見参!!』 |