暫くすると、コレットは扉の方から声がすると出て行き、プレセアはマーテルとお喋りを始めてしまった。一人取り残されたロイドが、堪りかねて二人を止めた。
「あーもー、いい加減にしろよ! それで、本当にバイアスを捨ててきたのか?」
「ああ。一昨日、ようやく隙を見せたのでな。気絶させて電撃で痺れさせ、鎖と縄で縛り上げてドレイクの巣に放り捨ててきた」
「……それって、むしろ暗殺って言うんじゃ……」
ロイドが冷や汗を流しながらそう言った直後、扉の方から、どこかで聞いたようなやりとりが聞こえた。
「ちわー。ボトルメールで〜す」
「はーい、ご苦労様。開ければいいんだよね?」
「はい。ボトルがきつく閉まっていますので、力一杯引き抜いてください」
「待って、コレットさん! それは……」
一番近くにいたプレセアが気付いて制止しようとしたが、間に合わず、コレットはボトルメールの栓を開けてしまった。
すると、今回は転移魔法の類は発動せず、どう見てもビンの口より大きい、紅い本が出てきた。表紙には顔があり、なんとも悪趣味だ。
「なんだ、この本……?」
ロイドがそれを取り上げようと歩み寄った。すると、本が動いた!?
「おぉのれトレニアァァァァ! 今日一日だけ代わってやったら、いきなり変なビンに閉じ込めた上に、何処とも知れぬ異世界に我を放り捨ておって! 絶対許さあぁぁぁん!!」
「ほ、本が喋った!?」
喋ったとか、そういう次元を通り越して、むしろ意志をもって生きている。全員がそのことに驚愕していると、紅い本はロイドの方へと寄って行った。
「おい、そこの赤いつんつん頭。今、もしかして我が……本が喋った程度で驚いたか?」
「あ、ああ……」
ロイドが曖昧に頷くと、本はいきなり叫びだした。
「なにぃ! それじゃあ、ここはマジメ路線なのか!? そんなバカな!! 我ともあろう者が、そんな世界に来てしまったのか!? あぁりえぇん!」
「な、何を言っているのだ……?」
「なんかよぉ、どことなくアイツにノリが似てねぇか?」
「言われてみれば、確かにそうですね」
ユアンはマーテルを外へ避難させると、改めて本を見た。
……確かに、あのバカを髣髴とさせる雰囲気がある。しかし、この魔力は……。
「なぁ、本のあんた。あんたは、いったい何者なんだ?」
「ん? 我か? よかろう、教えてやる」
「やっぱ、なんか調子狂うよなぁ」
人に名前を尋ねて快く答えられると、ロイドは決まってばつが悪そうだった。自分は素直に答えないひねくれ者だからだろう。しかし、それだけではないだろう。
「ノリが良すぎる……といったところか」
ユアンがなんとなくそう呟くと、本は高らかに名乗りを上げた。
「我はゼタ! 宇宙最強の魔王なりぃ!! どうだ、驚いたか人間共! フハハハハハハ!!」
「宇宙最強の魔王……」
「ゼタ……」
『……誰?』
外にいるマーテルも含めて、全員がそう聞き返した。すると、ゼタはショックが隠せない様子で詰め寄って来た。
「き、貴様ら! 我の名すら聞いたことがないのか!? 我は全宇宙にその名を轟かせる、最強の魔王だぞ!?」
「魔王自体、御伽噺の中の存在ですから」
プレセアが冷静に答えると、ゼタはわなわなと肩?を震わせた。
「くっ……我ともあろう者が、なんと情けない。こんなド田舎世界に来てしまうとは……!」
「どこがド田舎世界だ!!」
「ここに決まっている。マナも異常なまでに希薄だし、何より我の存在を知らないなどと……。ところで貴様ら、まさか勇者とかだったりせんだろうな?」
何の脈絡もなしに、ゼタはそう尋ねてきた。それに、コレットが驚きながら答えた。
「え? どうして知ってるんですか? ユアンさんとマーテルさんは古代大戦の英雄で、勇者って呼ばれてたんですよ〜」
「てか、俺さま達も世界を救った英雄って、巷では呼ばれてるけどな〜」
ゼロスがさらにそう付け加えると、ゼタは相当な衝撃を受けた様子で、後退りまでした。
「貴ぃ様らがぁ!?……ちょっと待て、ゼタアーイ! ミミー!!」
「な、何だ……?」
十数秒後、ゼタはまた叫んだ。
「ほう。それなりにレベルは高いようだな。……どれ、その英雄とやらの実力を試してやろう!」
突如、ゼタがこちらを睨み、目を妖しく輝かせた。
「ゼタビィィーム!」
「プレセア! コレット! 危ない!」
そう叫んでロイドは、ゼロスを押した。ゼロスは、二人とゼタの間に挟まれる格好となった。ユアンはひょいと身をかわす。直後、ゼタの目からビームが飛んできた。
「ピピー!」
「うっぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
「うわ! ヒドッ!」
撃ち終わった直後、ゼタは開口一番そう言った。おそらく、ゼロスを盾にしたことを言っているのだろう。
「いきなりなんてことするんだ! この悪魔!!」
「いや、確かにそうだが……お前の方が酷いことをしているだろう? 普通、英雄とか勇者とか呼ばれている奴が、仲間を仲間の盾にするか?」
「いいんだよ、ゼロスなんだから」
「なぁんでぇぇぇぇ!?」
ロイドがさらっとそう言うと、倒れていたゼロスが急に立ち上がった。その目からは涙が溢れているのだが、頭がチリチリパーマになっているせいで、同情よりも笑いを誘った。
「あ、生きてた」
「あのアホ神子、やはり生命力はゴキブリ並みか」
ゼタとユアンは、わりと冷静に言った。
「ハニー! なんでよぉ!? 何で俺さまばっか、こんな目に遭わせるわけ!?」
「別にいいじゃんか、ゼロスなんだから」
「何の曇りない爽やかな笑顔で、そういうことを言うのか、おまえはぁぁぁ!!」
二人の言い合いを暫く見ていたゼタは、目を妖しく輝かせると、高笑いを上げた。
「ふはははははは! 面白いやつらだ、気に入ったぞ! 軽く捻り潰して、二度と立ち直れぬほどの挫折を味わわせてくれようぞ!」
そう言い放つと、ゼタはその場でくるくると回転し、窓の方を向いてぴたっと止まった。
「出でよ、我が下僕よぉ! INVITE(インバイト)!!」
すると、上の方で何か音がした。全員外に出て、空を見上げると、小屋がすごい勢いで落ちて来ていた。
「うわぁ!」
「くっ……」
「うっぎゃああああああああああああああ!!」
ゼロス以外は何とか避けたが、ゼロスはロイドとぶつかって転倒して、小屋の下敷きになってしまった。だが、大丈夫だろう。ゼロスだから。
ゼタが呼び出したらしい小屋の中から、5人と一匹が出てきた。
一人は、剣を携えた戦士風の男。
「……ゼタ様ぁ。いい加減、自分が売った喧嘩を俺たちに押し付けるの、やめてくださいよぉ〜」
「うっさい! 下僕の分際で生意気を言うな!」
一人は、腰に片刃の剣を佩いている厳つい男。
「拙者は、強い者と戦えるのならば、それで構いません」
一人は、ガラの悪い、銃を担いでいる痩せ型の男。
「まっ、これも仕事の内ってね。給料分は、しっかり働きますよ」
一人は、底の丸くて深いフライパンを背負い、右手に普通のフライパンを持っている、料理人のような風貌の男。
「う〜し! 取り敢えずみんな、美味い飯食って元気出せや! カカッカッカッカッ!」
一人は、他の者とは雰囲気が全然違う、魔法使い風の女性。
「治療は私がやりますが、あまり無理をしないでくださいね」
最後の一匹は……コウモリ?の獣人だ。背丈は人の膝ほどまでしかない。というか、着ぐるみ?
「にゃっは〜」
え? 猫?
どうやらゼタは自分では戦わず、たった今呼び出した彼らに戦わせるようだ。しかし、あの身のこなし、全員只者ではない。ネコウモリ?含む。
「あのー……誰か、助けて〜」
ゼロスが助けを求めてきたので、戦士風の男が覗き込んでゼロスの存在に気付くと、小屋をどかそうとした、その時。
「ビュゥティッ!!」
戦士の頬を掠め、ゼロスの額に紅いバラが刺さった。
この声……まさか。
不幸続きのゼロスを無視して、声のした方を見る。するとそこには、救いの塔の瓦礫の山の天辺に、堂々と立つ人影があった。
「何者だ!」
「ふふふ。流石は音に聞こえた魔王ゼタ。この私よりも目立つとは、堂々たるものです。しかし……あいた!」
バイアスが喋っていると、近くに棲む鳥形のモンスター達が、バイアスの周囲に群がり、彼を突っついた。
「あの、ちょっと、やめて下さい! 今、大事なキメの最中なんですから! あ、ちょっと、やめて! バランスが……」
モンスターを振り払おうとして、バイアスは足を踏み外した。
「あぁ〜れぇ〜!」
アンナと父様-お話スペシャル!『テイルズ・オブ・日本一 第2話 宇宙最強の魔王、堂々見参!!』 |