テイルズ・オブ・日本一
第2話 宇宙最強の魔王、堂々見参!!
クラトスがクルシスの残党と共にデリス・カーラーンで旅立ち、バイアスの分身を押し付けられたユアンが大樹を見守り、育てるようになってから1ヵ月。
「う〜ん。朝の陽射しもビュ〜ティフル!!」
ドスッ。
気がつくとバイアス(分身)は、鎖で縛り上げられた状態でドレイクの巣に放置されていた。
「何故にぃぃぃー!!?」
ドレイクの子供達がゆっくりと、バイアスに迫ってくる。逃げようにも、全身を簀巻きにされた状態で、思うように動けない。
もぞもぞとその場で動いている内に、振り返ると、涎を垂らしたドレイクの口が大きく開かれていた。
「うぎゃああぁぁぁぁぁ!!!」
辺りに、バイアスの悲鳴が木霊した。
2日後。大樹ユグドラシルを見守るために、ユアンが作った簡素な小屋。
ユアンは、小屋の中で大樹の精霊である彼女と話していた。
「……ふむ。どうやら奴も、ようやくくたばったようだな」
「よかったの? ユアン。あの人と一緒に暮らしているあなたは、とても楽しそうだったけど」
傍から見ている彼女からはそう思えたかもしれないが、ユアンは心底うんざりしていた。早朝から異常なまでにハイテンションで、その上五月蝿い。しかも、何かと付き纏う。
闇討ちを決意したのは2週間前だった。何度か本気で叩きのめしてやろうと、稽古と称して戦ったが、分身ではあってもやはり強く、確実ではなかった。そこで闇討ちすることにしたのだが、意外なほどに隙がなく、一昨日、ようやく隙をつけた。
そのことをあまり分かっていない彼女に、ユアンは愚痴った。
「冗談ではない。あれと四六時中常に顔を合わせている私の身にもなってくれ。……大樹の、精霊」
ユアンはどうにも、彼女を名前で呼ぶことに、契約した今も抵抗があった。わざわざしいなに頼み込んで精霊研究所を紹介してもらい、契約したというのに……。彼女の姿と名が、かつて、自分の目の前で死んだ彼女と同じなのが悪いのだ。
すると、大樹の精霊はそんなユアンの心中を察してか、くすっと小さく笑い、穏やかに言った。
「マーテルで構いません。貴方やクラトス、そしてミトスとの旅の記憶も、私の中に確かにあるのですから」
「そして同時に、死んで逝った再生の神子の記憶も……か」
「はい。ですが、マーテルが主な人格であることは、貴方にも分かるでしょう?」
「……そうだな」
死んでしまった、もう二度と話すこともできなくなったはずの最愛の人と、再びこうして話している、か……。
すると、ユアンの耳にこちらに向かってくる足音が聞こえた。一瞬身構えたが、すぐに緊張を解いた。この足運び、あいつらの誰かだ。
「よぅ、ユアン! 遊びに来てやったぜ〜」
マーテルが消えた直後、小屋に入ってきたのは赤い長髪の蓬髪の男、テセアラの神子のゼロスだった。
「帰れ」
「おいおいおい。せっかく多忙を極めるテセアラの神子様が、きちょ〜な時間を割いてまで、わざわざ来てやったんだから、お茶の一杯も出すのが礼儀ってもんでしょうよ〜?」
「貴様の下品な喋り方はユグドラシルに悪い。さっさと帰れ!」
「いいじゃんかよ〜。……あれ? そういや、あのビューティー男爵は?」
「知らん」
「ふ〜ん。ま、いっか。ところで、大樹の精霊マーテル様は〜☆」
ぴくり。
ゼロスがマーテルの名を口にした直後、ユアンは愛用のダブルセイバーを手に取り、軽やかに跳び上がった。
「翔破……」
「ん?」
「爆雷陣!!」
「どぉわっ!?」
ダブルセイバーを床に突き刺すと同時に、周囲に雷を発生させる。だが、ゼロスは寸前で避けていた。ユアンはそれを確認すると、ダブルセイバーを片手にゼロスに詰め寄った。
「貴様! マーテルをもその毒牙にかけるつもりか!!」
「お、落ち着けって! いくら俺さまでも、精霊にまで手出しはしねぇって!」
「……尚更信用できん! ヴォルトアロー!!」
詠唱を破棄した上で威力を極力抑え、小屋への被害を抑えるぐらいのことは考えられた。だが、なんにせよ、かなりの威力があることに変わりはない。
「うっぎゃー!!」
「よ、ユアン。遊びに来たぜ!」
「こんにちは」
「ユアンさん、こんにちは〜」
ゼロスが黒焦げになって倒れた直後、エクスフィア回収の旅をしているロイドとプレセア、シルヴァラントの神子のコレットが入ってきた。
「……って、何でゼロスと戦ってるんだよ」
最近のロイドは、すっかり突っ込み役が板についていた。そんなつれない態度のロイドに、ゼロスは必死に叫んだ。
「戦ってんじゃなーい! 一方的にいじめられてんだよぉ!!」
「……どうせ、マーテルがどうとか言ったんだろ? 自業自得だよ」
「助けて〜、コレットちゃ〜ん」
あくまで冷たい態度のロイドにそっぽを向き、ゼロスはコレットに助けを求めた。コレットの博愛主義的な性格からして、間違いなく助けるだろう。
「ユアンさん。せっかく久しぶりに会ったんですから、ね?」
「……よかろう。命拾いをしたな、アホ神子」
「誰がアホ神子だっつーの!」
「あれ? バイアスはどうしたんだよ」
ロイドは小屋の中を見回して、以前来たときにはいたはずの人物がいないことに気づいたようだった。ユアンはそっぽを向いて、つっけんどんに答えた。
「さあな。私は知らん」
すると、外で様子を見ていたらしいマーテルが、こちらに来た。
「酷いのよ、ユアンったら……」
「マーテル!」
事情を話そうとするマーテルを、ユアンは名を呼んで咎めた。
「……あれ? マーテルさまぁ。俺さまが来たときは、出て来てくれなかったよな?」
マーテルはゼロスを無視して、話を続けた。
「彼に不意打ちをして気絶させて、鎖で縛り上げて何処かに捨ててきたのよ?」
「無視しないでよ〜」
ゼロスが大袈裟に嘆いてみせると、マーテルは楽しそうな笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。あなたの反応が面白くて、つい」
「もう! マーテルさまったらぁ、おちゃめなんだから〜♪」
マーテルの言葉に生気を取り戻したのか、ゼロスはすっかり元気になった。そして、そのままマーテルの肩に触れようとした……。
「瞬雷剣!」
「うはっ。あっぶねぇなぁー」
半分本気で技を出してそれを妨げると、ユアンは物凄い剣幕でゼロスに詰め寄った。
「マーテルに近づくな! この色情魔のヒモ男が!!」
「なんだとぉ、ヘタレ四大天使!!」
「黙れ! 誰がヘタレだ!! 貴様こそ、しいなとの仲に全然進展が無いそうではないか? いつもの威勢はどこへやった!」
「な、なんでテメエがそれを……ってか、余計なお世話だっつーの!!」
二人が延々と言い争いをしているのを、ロイドたちはほとんど呆れたように見ていた。唯一マーテルだけは、ユアンの楽しそうな姿に微笑を浮かべていたが。
アンナと父様-お話スペシャル!『テイルズ・オブ・日本一 第2話 宇宙最強の魔王、堂々見参!!』 |