「清廉より出でし水煙の乙女よ。契約者の名において命ず、出でよ、ウンディーネ!」
しいなが早速ウンディーネを召喚すると、ロイド達も一気に畳み掛けた。
「魔神連牙斬!!」
「魔神剣・双牙!」
ロイドとゼロスがほぼ同時に放った5つの衝撃波が、真っ直ぐシードルへと向かった。だが、シードルは笑みを浮かべたままだ。
「ジオ・デストロイ!!」
シードルが刀を勢い良く振るうと、凄まじい衝撃波が魔神剣のそれを飲み込み、襲い掛かった。
「どわああぁぁぁ!?」
前衛は全員、為す術もなく吹き飛ばされてしまった。だが、ジーニアスとコレットの詠唱時間は稼げた。
「蒼溟たる波涛よ。戦禍となりて、厄を飲み込め! タイダルウェイブ!」
「聖なる翼よ、ここに集いて神の御心を示さん。エンジェルフェザー!」
凄まじき過流がシードルの動きを封じ、エンジェルフェザーがそこに襲い掛かったが、シードルの刀の一振りで、あっけなく消し飛ばされてしまった。
「こんなものか?」
そこへ、空高く舞い上がっていたユアンが急降下して来た。
「甘いな! 翔破爆雷陣!!」
ほぼ同時に、プレセアの斧がシードルに襲い掛かった。
「獅吼滅龍閃!」
「ぬぅ」
シードルは衝撃を受け流して後方に飛んだ。その背後に回りこんだリーガルは、シードルの脇腹に強烈な拳の一撃を叩き込み、動きが鈍った一瞬に気功を練り上げた。
「消し飛べ!!」
発でシードルを吹き飛ばす。そして、ウンディーネも水のマナを練るのが終わった。
「今だ! ウンディーネ!」
「はい!」
幾つもの水の柱が立ち上り、シードルを襲った。最後に一際大きな水の柱で吹き飛ばされたが、シードルは空中で姿勢を整え、当然のように着地した。
「……終わりか?」
「なに!?」
「まずは魔法だ。ブラッディランス」
「きゃああああ!!」
詠唱を破棄し、シードルは一瞬で魔術を発動させた。シャドウやプロネーマのそれとは段違いの威力に、しいなとジーニアスは一撃で倒れた。
「しいな! ジーニアス!」
ロイドが叫んだ直後、シードルは高々と刀を構えた。そしてその切先に、火のマナの塊の球が団子状に連なった。
「余所見をする余裕があるか! らせん斬り!!」
シードルは凄まじい速度で回転し、火のマナの塊を地面に叩きつけた。その威力は凄まじく、直撃こそ避けられたものの、熱波だけで重度の火傷を負ってしまった。
「ぐ……うぅ……」
「つ、強い……」
ロイドは地に剣を刺して立ち上がり、シードルを見た。奴はまだ、息を乱してもいない。しかし、こちらは早くも満身創痍だ。こんなにも力の差を実感したのは、初めてだ。
「くっくっくっくっくっ。どうしたね、勇者よ。このままじゃあ、世界が滅びちまうぞ?」
「なんという力……! すみません、皆さん。私では、お力にはなれません……」
悔しそうに呟き、ウンディーネは消えてしまった。見ると、しいなが青い顔をして肩で息をしていた。それだけ負担が大きい技を使ったのか。
「万物の生命の息吹をここに。リザレクション」
リフィルが唱えた回復法術のお陰で、ロイド達の傷はほぼ癒えた。だが、疲れや精神的ダメージまでは癒えない。
「そうら、次だ!」
シードルは休む暇を与えず、刀を天高く掲げ、再び火のマナを凝縮し始めた。しかし今度のは1つだけだ。だが、かなり大きい。
「プレセア、ユニゾンアタックだ!」
「はい!」
ロイドはほぼ直感的にシードルの攻撃の種類を予想し、プレセアと共に闘気を練り上げ、放出した。
「キングベリタス!」
「イノセントエッジ!!」
火の力が込められた球のぶつかり合いは、数秒の膠着状態の後、球が同時に爆ぜて終わった。
「相殺できた!」
これなら、シードルとも戦える……そう思ったが、シードルの口元には笑みが浮かんでいた。まさか。
「ほぉ……少しはやるようだな。ならば……本気でいくか」
シードルはそう言って、邪気を完全に開放した。
「うげ、マジかよ!?」
ゼロスの驚愕をよそに、ユアンは思考を巡らせていた。
あれを使えば、奴を倒せるかもしれない。しかし、あれを使うには高度な魔法技術と、強靭な精神力が必要だ。ミトスとクラトスと自分の3人でさえ、1度しか成功しなかった。
……四の五の考えている暇はないな。それに、ゼタの課した修行のお陰で、我々も強くなっている。できるはずだ。
なにより……マーテルと大樹を守るためにも、やるしかない。
「神子、ジーニアス、耳を貸せ。アホ神子、お前もだ」
「へいへい」
3人が集まると、ユアンはロイド達4人に無茶を頼んだ。
「ロイド、リーガル、プレセア、しいな! 私に策がある、暫く耐えてくれ!」
「分かった!」
ロイドは意外にも即答してくれた。他の3人も、ロイドに続いて了承してくれた。申し訳なく思いながらも、ユアンは呼び寄せた3人に、シードルに聞こえないように小声で耳打ちした。その間、ロイド達は数度瀕死になっては回復を繰り返していた。
「なるほど……それはいけるかもな」
話を聞かされたゼロスは、ユアンの提案にも拘らず承諾した。それを聞くが早いか、今度はジーニアスがロイド達に無茶を頼んだ。
「よし! みんな、詠唱時間を稼いで! そうすれば、活路を開けるかも!」
「だけどみんな、無理しないで!」
「あいよ!」
コレットの心配りに、しいなは無理して笑顔で答えた。精霊を召喚するだけの余裕がないのだろう、しいなも前線で戦っている。
4人は円陣形を組み、魔術の詠唱を開始した。
「爆裂・粉砕拳!!」
「ぐおっ!?」
リーガルの拳の一撃がシードルを捉え、彼を呻かせた。常人が喰らえば、恐らく内臓破裂どころでは済まないだろう。
「リーガル、すげー……」
「見蕩れてる暇はないよ、ロイド!」
しいなの叱責に、ロイドはすぐに気持ちを切り替えた。
「おう!」
リーガルが足止めしてくれた隙に、しいなが散力翔符をシードルに貼り付け、動きを止めた。
「斬魔!」
「空牙衝!!」
ロイドは全速力でシードルを衝いたが、シードルは直前で身体の自由を取り戻し、ロイドの剣の切先を刀身で受け止めた。
しかしその背後には、プレセアを肩車しているリーガルが迫っていた。リーガルの肩から跳躍したプレセアは、空中で1回転して勢いをつけながら、斧を振り下ろした。シードルは直前にロイドの剣を振り払い、それをかわす。
「崩襲地顎陣!!」
シードルに斧を直撃させることこそできなかったが、足場を崩した。シードルがバランスを崩した隙に、リーガルは両掌を交差させた、気功を織り交ぜた強烈な一撃を見舞った。
「剛烈破砕掌!」
シードルは派手に吹き飛ばされたが、空中で姿勢を整え、刀を振り翳した。
「ちいぃぃぃぃ!!」
斬撃の衝撃は地を砕き、真空の刃をも作り出した。
ロイド達の善戦を無駄にしないためにも、これは必ず成功させる!
「天光満つる所に吾は在り、黄泉の門開く所に汝在り。来い! 怒れる神の裁きの雷!!」
「剣に秘められし七色の裁きを受けよ!」
「その力、穢れなく澄み渡り流るる。魂の輪廻に踏み入ることを赦し賜え」
「輝く御名の下、地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん。安息に眠れ、罪深き者よ」
ユアンがインディグネイション、ジーニアスがプリズムソード、コレットがリヴァヴィウサー、ゼロスがジャッジメントの詠唱を終えると、4人の足元に十字架を象ったような魔方陣が現れた。
それを確認したゼロスは、急に元気を取り戻したように言った。
「よぉし、即興ユニゾンアタックといこうぜぇ!」
「古代大戦時に編み出された秘術だ!……蘇れ。古の魔導よ!」
ユアンが叫んだ直後、シードルが彼らに気付き、間合いを一瞬で詰めた。
「させると思うか?」
「やらせるかよ!」
それを読んでいたロイドとリーガルは先回りしていた。ロイドがシードルを止めた直後、リーガルが空中から襲い掛かる。
『真! 龍虎・滅牙陣!!』
リーガルが着地した直後、2人は掛け声と共に拳と剣を地面に叩きつけ、凄まじい衝撃波を生み出した。
「風刃縛封!」
しいなはその隙をついてシードルの動きを数秒封じた。その間に、プレセアは力を溜め、間合いを詰めた。
「塵と化しなさい。奥義! 烈破焔焦撃!!」
プレセアの秘奥義が決まると、さしものシードルも苦悶の表情を浮かべた。
「ぬぅおおおおお!!」
そしてその瞬間、詠唱が始まった。
『天に集いし雷よ、地に在りしマナよ。人の紡ぎし言霊により、此処に集いて恐怖と共に現れ出でよ。破滅の光よ、我らの敵を永遠の闇へと誘え!!』
シードルの足元に、ディバイン・ジャッジメントの魔方陣に似た物が現れ、シードルの動きを奪った。それを確認した4人は、すぐにその場を離れた。
『ラスト・ジャッジメント!!』
シードルを魔方陣から放たれた光が包んだように見えた直後、プリズムソードとディバイン・ジャッジメントの光が、インディグネイト・ジャッジメントの雷が落ちた。
「ぬあああああああ!?」
シードルは魔術が終わった直後、地面に倒れ臥した。
「す……すげぇ……」
あれほど絶大な実力を見せ付けた冥王シードルを倒してしまうとは、とんでもない魔術だ。だが、術者であるユアン達の負担も大きかった。
頭が、くらくらする。もう一度やれと言われたら、命を懸けるしかないだろう。
「まだまだぁ!」
シードルが突然立ち上がり、斬りかかって来た。だが、それを見越していたらしいリフィルが、秘奥義を発動させた。
「命を糧とし、彼の者を打ち砕け! セイクリッド・シャイン!!」
リフィルの容赦のない追い討ちに、シードルは今度こそ倒れた。
「うっひゃ〜。リフィルさま、素敵〜。俺さま、惚れ直しちゃったぜぇ」
ゼロスはそう言って、リフィルに抱きつこうとしたが、しいなとリフィルから鉄拳制裁をくらった。
「それにしても、先程の術は? 凄まじい威力だったが?」
リーガルが問いかけると、ユアンは頭を押さえながら、ゆっくりとした速さで説明した。
「古代大戦時、魔術に優れていたシルヴァラントが開発した秘術だ。だが、古代大戦でも一度しか使用されなかった、謎に包まれた術だ。今使ったものも、ミトスが天使術を織り交ぜることによって複製したものだ。尤も、本来は四大天使が揃わなければ、使えなかったのだが……」
ユアンは暗に、ジーニアスとコレットとゼロスの成長を認めた。それを察したらしいコレットは、満面の笑みを浮かべて、しかし謙虚に言った。
「ゼタさんに鍛えてもらった成果だね」
「うん。認めたくないけど……」
ジーニアスは少し悔しそうだった。これでも、まだゼタの足元にも及ばないからだろう。そういえば、ゼタは本来どんな姿をしているのだろうか?
アンナと父様-お話スペシャル!『テイルズ・オブ・日本一 第3話 堕ちた勇者〜The prince of Darkness〜』 |