「は〜はっはっはっはっはっはっはっ! エェークレントォ!!」
バイアスは手に持った巨大な斧で、広間の床を軽々と砕いた。線の細い外見だが、その膂力はプレセアをも上回るかもしれない。
ゼロス、しいな、ジーニアス、クラトス、コレットはプリニーと戦い、残ったロイド、プレセア、リーガル、ユアンはバイアスと戦っていた。
「魔神連牙斬!!」
ロイドの攻撃で足を止めたところに、プレセアとリーガルが迫る。
「翔舞烈月華!」
「飛燕連脚!!」
プレセアが高く跳ね上げ、それを落とすことなくリーガルが追撃をかける。
「天翔……雷斬撃!!」
最後は着地した所に、ユアンの最強の奥義を叩き込んだ。
「しびでばびでぶぅぅぅぅ!!??」
バイアスは変なことを口走って着地し、軽々と反撃して見せた。
空旋連転斧から崩襲地顎陣、最後に獅哮滅龍閃。
「あ、そ〜れ! へ〜あ!」
全員派手に吹き飛ばされ、かなりのダメージを負ってしまった。回復役が誰もいない上に、アイテムを使えばその隙にやられる。クラトス達の方を見たが、何時の間にかプリニーの数が倍に増えていて、苦戦を強いられていた。
「どぉこを見ているんですかぁぁ!」
「しまった!!」
見ると、バイアスの斧が増殖していた。あまりのことに目を点にしていると、増殖し連なった斧を振り回し、こちらに投げて来た。
「うわっ!」
「そ〜れ、華麗ぇい斬ぁぁん!!」
慌ててしゃがんで避ける。
「うぎゃああああああああああ!!」
後ろにいたゼロスに直撃したようだが、きっと大丈夫だろう。しかし、この男「ビューティー男爵バイアスです!」……バイアスは本当に、冗談抜きで強い! 禁書の記憶の最深部で戦った、幻影の三英雄にも匹敵する。
「さぁ、決めますよ!」
消えた。いや、瞬間移動だ。まさか、そんなことまで出来るとは。バイアスはリーガルの周囲に、4人に分身して現れた。
「なにっ!?」
「ビュゥゥゥゥティィィィィィィ撃ぃ!」
4人のバイアスから放たれた光線はリーガルの周囲から天井にまで達し、光が消えた後、リーガルは倒れた。
「リーガル!」
「さぁ、次はどなたですか?」
「くそっ……」
こままでは、やられる。そう思った、その時。
「……響け、壮麗たる歌声よ。ホーリーソング!」
「うぜぇんだよ、てめぇら! ディバイン・ジャッジメント!!」
「聖なる楔に、抗って見せろ。シャイニング・バインド!!」
「力の違いを見せてやる! インディグネイト・ジャッジメント!」
「天、地、人。その源流、命数を掌握せしものよ。契約者の名に於いて命ず、出でよ、オリジン!!」
プリニーたちと戦っていた皆が、秘奥義でプリニーたちを吹き飛ばしたのだ。振り返ってみると、何時の間にかプリニーの数は、ざっと見ても50近くいた。一体何処から。
「やられたっす……」
「もう無理っす……」
「減給でもいいっす……」
あいつら、金で雇われていたのか。
クラトス達は満身創痍の状態で、参戦は期待できなかった。
「むぅ、やりますね。ならば、行きますよ!」
「なんだ、このマナの流れは……」
ユアンが呟いた直後、バイアスは宙に浮き、両手を大きく広げて天を仰いだ。すると、巨大な光の玉が現れた。これはやばいと、ロイドは勘で察した。
「ビュゥゥゥゥティィィィィ弾あぁぁぁん!!」
「粋護陣!」
「地精陣!」
「招雷陣!」
なんとか防御奥義で防いだが、それでも凄まじい威力だ。バイアスは更に高く舞い上がっている。
「一気に決めますよぉ! 超次元断!」
巨大な刃が襲い掛かってきた。それも、広間一杯に。これは、こっちに来る前にあ……バイアスを倒すしかない。
「エターナルソード、いく……」
ロイドが覚悟を決めた直後、どこかで見た覚えのある光線がバイアスに直撃し、地面に叩き落した。
「あぁ〜れぇぇぇ〜!!」
光線の出たほうを見ると、リーガルが手枷を腕力のみで破壊し、手を交差させ、掌から光線を出していた。ヴェントヘイムで捕らえられた時に使ってくれた、あの技だ。
直後、リーガルは膝を着いた。やはり、あの分身攻撃が効いているのだ。
「リーガル!」
「私に構うな! 今の内にやれ!!」
その言葉にロイドは促され、バイアスの目の前まで駆けた。バイアスが立ち上がった直後、フランヴェルジュとヴォーパルソードを掲げ、一振りの剣――エターナルソードを召喚した。
「いっくぞぉ! 天翔蒼破斬!!」
ロイドの最大の秘奥義が炸裂し、バイアスは玉座に背をぶつけ、倒れこんだ。しかし、すぐに立ち上がり、ロイドの前へと歩み寄ってきた。
「ふぅむ、やりますね。引き分けですか」
「うるせぇ! 俺達の勝ちだろ!」
「いえいえ。戦闘は貴方方の勝ちですが、美しさでは私の圧勝でしたよ」
よく分からないことを。しかし、戦いについては素直に負けを認めている。ただ、負けず嫌いではあるようだ。
「しかし、引き分けとはいえその力は驚嘆に値します。敬意を表して、私の分身を差し上げましょう。あなたに」
そう言って、バイアスは自分そっくりの分身を作り出すと、ユアンにそっと差し出した。
「いらん!」
「まあまあ、遠慮なさらずに。寂しい時は、添い寝しても構いませんよ」
「誰がするか! いらんと言ったらいらん!!」
背後では、添い寝しているところを想像したゼロスとロイドとジーニアスが大笑いし、残りのメンバーも笑いを堪えていた。クラトスでさえも。
「それでは、皆さん。私はそろそろ失礼します。帰りの道は、プリニーが案内してくれます」
「おい待て、いらんと言っているだろう。持って帰れ!」
「しかし、お忘れなく。ビューティー男爵はいつも、あなたの心の中に……」
「人の話を聞け! 持って帰れ!」
「は〜はっはっはっはっはっはっはっ!!」
ビューティー男爵バイアスは高笑いを残して、結局自分の分身をユアンに押し付けたまま、どこかへと去ってしまった。
その後、プリニーに案内されて、途中、城の中を食い入るように見ていたリフィルを回収し、時空ゲートと云う所に案内された。異なる次元と次元を繋ぐ装置で、これを使ってバイアスはロイドたちを此処に転移させたらしい。そう云うことで、リフィルは真剣な目をして「ここに残る!」と言っていたが、そんな訳には行くはずもなく、案内役のプリニーから渡された魔界特製の眠り薬を嗅がせて、アルタミラへと戻った。
「ああ、研究したかったのに……」
アルタミラの砂浜で、リフィルは残念そうに呟いた。
「勘弁してくれよ。もう、あんな所はこりごりだぜ〜」
「けど、あのプリニーって悪魔、可愛かったね〜」
「そうかぁ?」
「まぁ、カワイイと言えない事もないかもしれないけど……」
「けどよ、ゴキブリみたいにうじゃうじゃ湧いて出て来るんだぜ!? 俺さま、こりごりだぜ〜。絶対二度と会いたくねぇ!」
「リーガル殿、あなたのお陰で助かった。礼を言わせてくれ」
「いや。私もあの男の一撃に、誰よりも早く、一度沈んでしまった。当然のことをしたまでだ」
「しかし、あんな魔族もいたのだな。もっとこう、世界征服とか、そういう野望を持っている者ばかりだと思っていた」
「ロイドさん。ケガ、大丈夫ですか?」
「ああ。先生に治して貰ったから、大丈夫。けど、もうくたくただから、泳ぐのは明日にしようぜ」
「そうですね。今のままでは疲れが溜まっていて、楽しめそうにありませんね」
そんな取り留めのない会話を暫くしていると、本人と違ってずっと喋らずに後を付いて来るだけだったバイアスの分身が、急に立ち上がった。浜辺に座り込んでいる一行の前を通り過ぎると、波打ち際まで行き、太陽を仰いだ。
「おお、麗しき太陽よ! もっと、このビューティー男爵を照らしておくれ!!」
その言葉に、ロイド達はがっくりと項垂れた。たとえ分身でも、性格は本人とまったく変わらないらしい。
「……責任を持って管理しろよ、ユアン」
「な!?」
「そうだよなぁ、あいつはユアンにそいつを呉れたんだから、ユアンが責任を持たなきゃなぁ!」
「じょ、冗談ではない! 何でこんな奴を……」
「契約期間は3ヶ月です。短い間ですが、よろしくお願いします。は〜はっはっはっ!」
「ふ、ふざけるなあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その後三ヶ月、ユアンはバイアスの分身に振り回される生活が続いたという。
・・・続く!?
アンナと父様-お話スペシャル!『テイルズ・オブ・日本一』 |