プーさんのアルバイト

2、


「すみませ〜ん。ネイルアートしてほしいです〜♪」

「いらっしゃいませ。どうぞ・・・・・・・・・・!??」

プロネーマは、目の前にたまった集団を見上げて目を見張った。

(み・・・・・神子!それに、ロイドまで!)

「よいところで出会えたのう・・・・・・・・・・はっ!」

「あの〜。どうしました?」

たっぷりと流れる金髪をゆらして、コレットが不思議そうに首をかしげる。

プロネーマは、思わずアルバイトに来ているという自分の立場をわすれて戦闘態勢に入ろうとしてしまい、あわててその場をとりつくろって笑った。敵とはいえ、今は大事な金ヅル。のがしたら後でこうかいするにちがいない。

「あ・・・・・ああ。なんでもないぞえ。ところで、今日は、どういったネイルを所望じゃ?」

「え〜と〜。かわいくしてください♪」

コレットがにっこりと笑うと、横からしいなが体を乗り出して言った。

「あ、あたしも! あたしも、次、お願いするよ!」

「・・・・・きょうみは、あります」

いつの間にか、しいなの前に立ったプレセアが言う。

リフィルも、興味をかくせない様子で瞳をかがやかせながら言った。

「私は、装飾(そうしょく)は必要ないけれど・・・・・最近、つめのケアをおこたっているから、お手入れだけ、お願いしようかしら」

「よい心がけじゃ。そなたたちに、英雄ミトスの加護があらんことを」

一度に大勢の客がおしよせて正直にうれしいプロネーマは、コレットたちが、今だけ自分の救いの主に見えた。

「それでは始めるぞ・・・・・」

プロネーマが商売道具に手をのばして作業を始めようとした時、自分をのぞきこむ頭の数が、さらに増えた。

「いらっしゃいませ」

条件反射でそう言って顔を上げてみると・・・・・・

(!!!・・・・・クッ、クラトス!!!!!)

「・・・・・?」

こおりついたプロネーマを見て、少し不思議そうな顔をしたクラトスの顔がこわばる。プロネーマはいつも分厚い化粧をしているので、今日はスッピンだから五聖刃のメンバーに会っても分かるまいとたかをくくっていたが、クラトスとユアン、そしてミトスは、彼女の素顔を見たことがあるのだ。会議にちこくして、大あわてで出勤した時に・・・・・

(し・・・・・しまった・・・・・!うかつだった〜!!!)

クラトスはミトスにつかえる大天使で、自分の直属の上司でもある。もし、このようなことがミトスにバレてしまったら・・・・・・

終わりじゃ・・・・・身のはめつじゃ〜!!!

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

しかし、クラトスは、表情をかためたまま、無言でプロネーマに背を向けた。すると、とたんに かわいらしい女性の泣き声があがる。

「もう!クラトス!見るだけならいいって言ったじゃない!」

「・・・・・・?」

プロネーマが顔を上げると、クラトスの体をすりぬけて一人の若い女性が現れた。見た目は健康そうに見えるが、その身体はすき通っていて、すぐ後ろであわててふり返ったクラトスが見てとれた。

(アストラル体・・・・・・・・・・アンナ・・・・・か?)

プロネーマは、二人の様子から瞬時に状況(じょうきょう)を判断する。

アンナは大きな目をいっぱいに見開いて、プロネーマと彼女の商売道具をくいいるように見つめいている。

「アンナ!いい加減にせぬと、本気で怒るぞ!」

(しめた・・・・・!)

プロネーマは、すでに本気で怒っているクラトスを見て心の中で手を打った。ここでアンナに恩を売っておけば、自分の身は安全にちがいない。どうせなら、クラトスの弱みもにぎっておけば・・・・・かんぺきだ。

「まあまあ、かまわぬではないか。彼女も、ネイルを体験したいのであろう?」

「はい!」

アンナが元気いっぱいにうなづく。しかし、アンナは、とたんにしおしおとうなだれてしまった。

「でも・・・・・あの・・・・・・・」

「ああ。そなたはアストラル体じゃから、ネイルは無理だと思っているのか?」

「わあ。どうして分かるんですかー?」

コレットがのんきに笑って言う。

「そなたのような女性に、時おり出会うのでな」

と、適当なことを言ってから、プロネーマは、にやりと笑った。

「体をかりればよいのじゃ。例えば・・・・・そう。そなたの主人はどうじゃ?」

「え?」

「なに!?」

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