プーさんのアルバイト

1、


「・・・・・ちっ。今月も、これだけか・・・・・・・・・・」

プロネーマは、分厚い封筒(ふうとう)の中をのぞいてため息をついた。今日はお給料日。待ちに待ったラッキー・デーのはずなのだが・・・・・

「先月、調子に乗って買い物しすぎたか・・・・・」

プロネーマは口のはしを上げて苦笑した。先月はユグドラシル主催の飲み会が3度もあり、そのたびに新しいドレスを買っていどんだので、クレジットカードの引き落としがすんだ後は、ほとんどお金が残らない計算なのだった。

「ユグドラシルさまのお側へ行かせていただくためなら、ドレスの3着ぐらい安いものだが・・・・・」

・・・・・・・・・・・今月、どうやって生活しよう?

正直、そのようなことは考えないようにしているのだが、ぶっちゃけ言ってしまえば、ディザイアンの給料は安かった。さらに、フォシテス、マグニス、クヴァル、ロディルの仕事仲間とは険悪の仲だし、上司は、まぬけなユアンとだんまりのクラトスだ。

(・・・・・・・・・・最悪じゃ)

本当によく続いているものだ。ユグドラシルがいなければ、このようなところに誰が好き好んで身を置くものか。プロネーマは、われ知らずため息をついた。

「・・・・・いかん。このようなささいなことでネガティブになっている場合ではないのう。ユグドラシルさまに知れる前に、なんとかしなくては・・・・・・・」

ちょうどその時、プロネーマがつけ放しにしていたモニター画面で、今日の運勢をうらなうコーナーが始まった。

「お♪み♪く♪じ♪ た♪ま♪ご〜♪」

「ん?たまごの色を選ぶのか?・・・・・どれ・・・・・・・黄色じゃ!黄色!」

「黄色を選んだあなたは〜大吉!得意なことを仕事にすれば、金運がアップする・・・・・カモ〜♪苦手な上司に気をつけるのだ〜」

「得意なこと・・・・・・・か」

プロネーマは自分の指に目をやり、きらびやかに色づけされた上に美しい細工がほどこされたつめをじっとながめた。実は、プロネーマはネイルアートが大好きで、金欠になった時には、ユグドラシルにないしょでアルバイトをしていた。ネイルアーティストとして。

「ふむ・・・・・・・アルタミラへ行くか・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「うわあ〜♪すごいですぅ〜♪」

「ほんとにスゲー!!!」

コレットとロイドが、ずらりと目の前にならんだバザールを見て歓声をあげた。

「このバザールは、月に一度、ここアルタミラのメインストリートで開かれる。世界中からありとあらゆる物が集まる、いわゆる祭りのようなものだな」

はしゃぐロイドたちの背中に、リーガルが静かに声をかける。

道ゆく女性をかたっぱしからながめていたゼロスが目を細めてつぶやいた。

「そのわりに、いい女がいねえなあ〜」

「あら。あなた、女性なら誰でもかまわないのではなくって?」

「とほほ・・・・・リフィル先生、きびし〜っ!」

ゼロスが かたを落としたわきで、しいながプレセアのうでをひっぱった。

「あっ、見てごらんよ。ネイルアートのお店があるよ!」

「ネイルアート?見たい見たい!!!」

しいなのよびかけに明るい声が答える。しかし、声の主のすがたはどこにも見えず、かわりに、クラトスのするどい叱責(しっせき)が飛んだ。

「ダメだ!人の多い場所ですがたを見せたらさわぎになるだろう」

「・・・・・・はぁい」

「クラトスさんって、ホンット過保護だよね〜」

ジーニアスがクラトスの背中に向かって茶化すように言うと、クラトスの胸元にだかれたアンナのフィギュアからため息がもれた。

「もう死んじゃってるから、なんにも心配することないのにね」

「アンナ!」

クラトスが本気で怒声をあげると、アンナのフィギュアは それっきりだまりこんで静かになった。

「・・・・・まったく・・・・・連れて来るのではなかったな」

クラトスは、胸の奥深くにフィギュアをかくすと、やれやれとため息をついた。

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