しいなとリフィルの戦闘日記

3、


「な〜にが 『女だから』 だ!バカにするなってんだ!!」

「そうね。その考え方は、まったく賛成できないわ」

ロイドの暴言に腹をたてた二人は、被害者ということで持った共通の思いをお互いにはき出して、自分たちの気持ちを落ち着けようとしていた。

「なんだい。あたしたちが戦わないといけないのは、世の中の男たちが だらしないからじゃないか!」

「話がそれていると思うけど、否定はできないわね」

「そうだろ?あたしたちが、こんなになってがんばってるってのにサ!男も女も人間もエルフも動かなきゃ、一体、いつになったら世界が平和になるってんだい?」

「しいな・・・・・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・なにサ」

しいなは、リフィルがまた毒をはくのではないかと予想して、心に受身を取ってから横を見た。しかし、リフィルは、どこかおどろいたように目を見開いて、しいなをじっと見つめていた。

「な、なんだってんだよ。あんたがだまってると、気味が悪いねえ」

「・・・・・・・いえ。ごめんなさい」

そう言ったリフィルは、かすかに笑っていた。

「そうなのね。だから、あなたは・・・・・・」

「どういうことサ?」

リフィルの言い方は相変わらず高飛車だが、不思議と今は、いつものとげとげしさを感じない。

しいなは、座っている向きを変えてリフィルを見た。

リフィルは、静かな瞳をしいなに向ける。

「しいな。・・・・・あなた、もしも、この先に、私たちが敵同士になったとして・・・・・・お互いの命をうばわないと世界が平和にならないと知ったら・・・・・どうするの?」

「な、なんだって!?」

「もしもの話よ。事実じゃないわ」

「なんだい。おどかすんじゃないよ・・・・・」

ほっと胸をなでおろしてから、しいなは下を向いてしまう。

「そんなこと・・・・・考えたことないよ。そうならないようにって祈るしか・・・・・」

「だけど、考える必要のあることじゃなくて?」

「・・・・・・・・・・え?」

しいなが顔を上げると、リフィルは、どこか悲しげな色をうかべた空色の瞳でしいなをのぞきこんでいた。

「あなたには、あなたの役目がある。私たちにも、ね。今は同じ道を選んだから一緒にいるけれど、いつ、お互いの道が分かれるか分からないわ。世界に平和をという目標はひとつでも、方法がひとつとは限らないでしょう?・・・・・もしかしたら、私たちの方法がまちがっていて、あなたの背負う使命が正しいということだってあるかもしれないわ」

「リフィル・・・・・・」

しいなは、初めてふれた彼女の本音に言葉を失った。それは、とてもあたたかいものだったからだ。

「あんた・・・・・いつも冷たいのは、あたしをうたがってたからじゃ・・・・・なかったのかい・・・・・・?」

「もちろん、それもあります。今だって、決して心を開いているわけじゃなくってよ」

「あ、あたしは・・・・・・」

しいなは、自分がこれまでにしてきたことが とたんにはずかしくなって地面を見た。

リフィルは認めてくれていたのだ。もう、ずっと前から。おそらくそれは、自分がロイドたちと一緒に旅をすると決めたときから。

そして、いつかおとずれるかもしれない別れのために、余計な荷物を負わせないように考えてくれていたのだ。

友情という、失うことのできない荷物を・・・・・・・・・・

「あたし・・・・・ごめん・・・・・ごめんよ・・・・・・」

しいなは、あふれるなみだを何度もぬぐって頭を下げた。

「・・・・・こちらこそ、反省すべき点はあると思っているわ。あなたが、そこまで強く世界の平和を考えているという気持ちをはかれなかったのは私のミスだわ。気持ちが強すぎて、空まわりしていたことも・・・・・・」

そう説明してから、リフィルは、とても言いにくそうに、一呼吸おいてから言った。

ごめんなさいと。





「ちんたらすんじゃないよ!とっとと回復しておくれ!」

「おだまりなさい!これ以上いそげないわ!」

今日も、リフィルとしいなの はげしいかけあいが続く。

「・・・・・なんか、あれを見てるより、敵と戦ってる方が、よっぽど楽だぜ・・・・・・」

ハラハラしながら剣をふりおろしたロイドの横から、リーガルがとどめをさして戦闘が終わった。

乱れた髪をやれやれとなでつけながら、しいなが言う。

「女だからって、なめんじゃないよ!」

「女のほうが、戦いに向いているのよ」

リフィルも、不敵な笑みをうかべて言った。

「???・・・・・な、なんだなんだ?一体、なにが、どうなってんだ???」

仲が良いのか悪いのか、本当にわけの分からないロイドが、女性たちとリーガルを交互に見て首をかしげる。

「よく分からぬが・・・・・とりあえず、良い方向へ向かっているようだな」

リーガルは、どこか安心した様子でため息をついた。



「女のおしゃべりも大切ってことサ」

「時にはね」

そう言って、二人は笑った。



20050904

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